第297話 生まれた処を遠く離れても
「春キャベツの甘めのポタージュです」
「ありがとう」
運ばれてきた濃いグリーンのポタージュを、うーん身体によさそうだけど緑が強いと思いつつ、口に入れてみるとはんなり甘くて美味しかったので、嬉しくなる。
春の野菜は苦かったり、甘かったり。そんなことも忘れてたな。食べ物ひとつひとつの味よりも、とにかく食べなくては、と食欲がないのに口に運んでたから。
「レティシア様。あちらに居る者によると、サリアの民たちは、昨日のサイファお迎えを喜んでらっしゃるようですよ」
「サイファのことを?」
レイの言葉に、レティシアが尋ねる。
「サイファのことと言うか、フェリス様がレティシア様を大切にしてくれてるようだと……」
「フェリス様が私を大切にしてくれてるとサリアの民が喜んでくれてるの?」
「そうですね。幼い身空で、ディアナで苦労してるのではないかと心配されてたようで」
「そんなこと……」
あるのかな。
サリアで、レティシアの心配してくれたりするのかな。
「サリアのレーヴェ神殿にいる者が伝えてくれたのですが、急にレーヴェ神殿への供物が増えたと」
「竜王陛下に? お供えが? どうして? フェリス様が私を大事にして下さってたら、竜王陛下にお供えが??」
んんん? フェリス様じゃなくて竜王陛下にお供え?
「僕がレーヴェの末裔だからじゃない? まあ、どんなときにもレーヴェは得する体質と言うか……」
フェリス様が笑ってる。
「……竜王陛下は大好きなのですが、ここは、フェリス様に感謝して欲しい気がします……」
んんん、とレティシアは首を傾げる。
もっとも生きてるフェリス様にお供えは変だから、そうすると竜王陛下に感謝になるのかな?
「僕は、レティシアが僕に苛められてないって、サリアの人が安心してくれるならそれでいいよ」
「苛められてないです。とっても大事にしてもらってます」
王宮の外のサリアの国の人が、レティシアの結婚をどんな風に思ってるかなんて、レティシアには知る由もなかったけれど。
誰かがそっと心配してくれてたのかな、と思うと、じんわり嬉しい。
歳もあわないから、無下にされるんじゃないかって。
叔父様や叔母様は思わなくても、何処かで案じてくれた人がいて、レティシアの幸福を喜んで、竜王陛下に感謝を捧げてくれる人がいる。
「……レティシア?」
「もったいなくて、嬉しいです」
レティシアは王女だったけれど、お父様もお母様も、疫病で亡くなった国の人々も救えなかったから、案じて貰うに値しないけれど、故郷の人に少しでも思って貰えるのは、嬉しい……。
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