第296話 王弟殿下の普段の朝について
「レティシア様。今朝の御茶は何を御希望ですか?」
「ん……とね、薔薇の御茶がいい」
ここはやっぱり、ご当地のものだよね!
茶摘みじゃないけど、レティシアも薔薇摘みとかしたいな!
「畏まりました。レティシア様、昨日、初めての薔薇祭は楽しんで頂けましたか?」
「うん、すごく! 屋台をね、見せてもらったりしたの。いちごや薔薇やいろんなものが売ってて……みんなとっても楽しそうだった」
心から楽しそうな民の顔を、久しぶりに見たよ。物凄く意外なんだけど、フェリス様って、とっても親しみやすい領主様みたいで、そこかしこで街の人に捕まってた。
ハンナから、フェリス様が御領主になってから、シュヴァリエはとても状態がいいと聞いてたけど、よく手入れされた綺麗な街と明るい顔の人々が、シュヴァリエという土地の豊かさを象徴していた。
疫病や不作に苦しむと、人の顔も街の様子も暗くなることを、ちいさなレティシアはよく知っているから。
「それはようございました。シュヴァリエの者はみな、フェリス様の妃となられるレティシア様にお逢い出来て、きっと喜んでおりますよ」
「う……。こ、こんな小さいお妃様でごめんね……」
ううう。と食卓の椅子の上で頭を抱えてしまう。
ああー! 一晩眠るごとに一歳ずつ大きくなればいいのにー!
フェリス様みたいな美貌じゃなくても、もうちょっとこういいかんじの背丈が……。
「とんでもございません。どんな背の高い姫君も、私共のフェリス様を、こんなに朝から笑顔になどできません」
「そう?」
さっきね、二人で手を繋いで、食堂まで歩いてたら、何かまたレティシアの言葉が、フェリス様の笑いのツボに入っちゃったらしく、フェリス様大笑いしてたのね。
そしたら、みんな、ギョッとした顔してた。
まるで、タペストリーの中の竜王陛下が動き出したくらいの驚きだったわね。
「あのね、みな、レティシアが普段の僕を疑うから、朝から僕が笑ったくらいで感動しないように」
フェリス様が苦笑して給仕の人を宥めている。
「はっ。フェリス様、申し訳ありません。でも本当に……フェリス様とお話のあう、よき姫が来て下さって……よろしゅうございました。神に感謝致します。きっと、竜王陛下のお導きです」
フェリス様、そんなに普段笑わない人なの? て心配になるよね。レティシアといるときのフェリス様、どちらかというと笑い上戸だから。
ぜんぜん氷の王弟殿下じゃないし。フェリス様あったかいし(くまちゃんよりやや高機能なフェリス様)。
あったかい体温に安心して、いっつもフェリス様のとこで寝ちゃうの……。甘え過ぎてて、恥ずかしい……。
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