第295話 レーヴェ神殿の意向について
ディアナにおけるレーヴェ神殿は、もちろん総本山なのであるが、御本尊の竜王陛下が豪華すぎる神殿なんて何か悪い事してそうでよくないぞ、控えめにしとけ、という御神体である。
とはいうものの、いまもレーヴェ竜王陛下人気は凄まじく、レーヴェ神殿は寄進に事欠いた試しがない。
ディアナの人々は自慢のレーヴェの神殿を美しく飾りたて、フローレンス全土から巡礼客がここを訪れる。
「オリヴィエ神官長。マグダレーナ王太后様の宮より、サリアから気になる文が届いたと……」
「サリア? フェリス殿下の婚約者、レティシア妃殿下の御郷からですか?」
朝の祈りを捧げていた神官長オリヴィエは二十六歳の青年である。
昨年、先代のロルカ神官長より、重責を引き継いだ。
「はい。王太后様はサリアの世迷言よと仰ってるそうですが、念のために、神殿と魔法省に確認をと。サリアのイザベラ王妃のお抱え占星術師が、王弟殿下の婚約者レティシア様が災いを呼ぶ姫であると。殿下の婚約者を、現王女のアドリアナ様にかえるべきであると占ったと……」
「……ディアナの星読みたちの言葉を覆すほどの術者がサリアに存在を?」
怪訝そうにオリヴィエは眉を寄せた。居並ぶ白い衣の神官たちにもざわめきが広がる。
「サリアの占星術師の名はミゲル。……初めて聞く名です」
「レティシア姫が災いを呼ぶ姫ならば、竜王剣の柄も鳴りましょうし、天候も崩れようが、レティシア姫のお渡り以来、フェリス殿下の婚姻を祝うように、ディアナ王都は春の陽光に溢れている。レーヴェ様はレティシア姫をお気に召していると私は思うが」
「フェリス殿下はレティシア姫をことのほかお気に入りとお聞きしたが」
「神代の昔から、竜王陛下様は、果敢な姫を愛しく想う御方。幼き身の上で御一人でフェリス様のもとに嫁されたレティシア姫をきっと御守りになりますとも」
「左様ですね。サリア王家がどのような了見か存じませんが、ディアナの地を踏まれたときから、レティシア姫は我が王家の姫、フェリス殿下の妃にして、レーヴェ様の娘となる御方。そのレティシア姫への愚弄は、レーヴェ神殿への侮辱と捉えますが……」
オリヴィエはじめ神官たちの反応は、竜王陛下がちいさきものに弱いという性質もあるのだが、リリア僧からの信徒奪還と竜王剣の件で、神殿は密かにフェリスに大きな借りを感じているのだ。
(フェリス自身は、レーヴェの神殿に恩を売る気で働いた訳ではないのだが)
「王太后宮への回答と、サリア魔法省および占星術ギルドに警告を。レーヴェ神殿は、竜王陛下の大切な娘を誹謗中傷されることを好まぬと。フェリス殿下がレティシア姫を愛されるように、竜王陛下はレティシア姫を愛されると。……王弟殿下の御婚儀の為のこれまでの神殿の星見など無意味と仰るならそれまでだが、我らにもそれなりの矜持はあるとな」
(ロルカから、この若者はいかがでしょう、て尋ねられた時、オリヴィエは神官長なんぞに据えるには頭が切れすぎじゃないか? もったいなくないか? と返事したけど、さすがにロルカの秘蔵っ子なだけあって、オレの好みをよく知ってるよな~。それにしても、レティシアにそんなこと言ったら、うちのフェリスがまたなんか破壊しそうで……あのサリアの叔母さん、相手を見て喧嘩売って欲しいわ)
レーヴェは玉座に寝そべりながら、神殿の神官たちを見下ろしていた。神官たちは竜王陛下を敬愛し、よく竜王陛下の気性を知っている。
だけどこのなかのほとんどは、どんなに修行しようとも、レーヴェの姿を見ることもなく、声など一生聞くことは叶わない。
(なのに、レティシア、何の修行もせず、オレ相手にフェリスの惚気話してるんだけど……どーなってんだろうな、あの娘? だいたい推しってなんなんだ?)
くすくす笑いながら、上出来だ、オリヴィエ、オレの可愛い娘に無礼を言うな、とがっつり威嚇しといてくれ、とレーヴェはオリヴィエの髪を撫でた。
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