第289話 ディアナ魔法省に寄せられる疑惑について
「王弟殿下、朝の貴重な御時間を頂き、申し訳ない」
長い白い髭を蓄えたマーロウ師は、肩書としては、ディアナ王立魔法学院学長と、魔法省大臣を兼任しているが、本人は、歳をとったからというだけで、何かと大層な役職をつけないでもらいたい、とぼやく魔法を愛する呑気者である。
「おはようございます、マーロウ先生」
綺麗に着替えたフェリスは、優雅に師に礼をとる。
魔法省にあるマーロウの執務室と、フェリスの部屋を遠隔通話の魔法で繋いでいる。
「王太后様からの謹慎は解かれたと言うのに、王弟殿下はご領地に帰ってしまわれた……とうちの若い者たちが嘆いておりましたよ、フェリス様」
「ちょうど薔薇祭の時期だし、レティシアとの婚姻の支度もかねて……」
最初からシュヴァリエでレティシアを迎えてもよかったのだが、年々シュヴァリエの薔薇祭の規模が拡大してるので、シュヴァリエの繁栄自体はとてもいいことだが、あまりフェリス個人が目立つのは、と行事への公式参加は控えめにしていたのだ。
「レティシア姫は御機嫌いかがですか? 昨日はサリアへ行かれたのでしょう?」
「先生は何でもお見通しだ」
にこ、とフェリスは、マーロウの姿を見上げて、華のように微笑む。
「いやいや、そんなことはないですな。ガレリアのリリア神殿への落雷はディアナ魔法省の仕業では? とやたらに言われて、マーロウの爺は困惑しておりますよ。我がディアナ魔法省の者達は有能だと自負してはおりますが、夜更けにガレリアの結界を破り、他の誰にも怪我はさせずに、リリア大司教の座所のみに落雷させるほどではありません」
「ガレリアのことは、不幸な天災だったね」
「殿下。何か悪戯をなさるときは、ぜひとも、あなたの臣下でもある、この爺にも一言、ご相談頂きたいと思うのですが」
「爺は私の臣下などではないよ。私もマーロウの爺も、等しく陛下のもの。兄上のものだ。それに私はもう大人だから、悪戯などしないよ」
「困った御方だ。子供の頃より、老獪になられてしまって……」
「そんなことはないよ。私は意外と単純な男なのだな、と最近、我ながら感動している」
「フェリス殿下が単純? ですか?」
「うん。最近の私はとても単純だ。レティシアが笑うと私も嬉しい。レティシアが悲しいと私も悲しい」
故に、マーロウの爺との話を丸く収めて、早く朝食の席に着きたい。罪もないレティシアが心配していたので。
「なんと、あの小さなサリアの姫君は、それほどに殿下の御心の内に入られましたか。……言われてみれば、雰囲気がずいぶん優しくなられましたな、フェリス様」
「そうかな?」
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