第280話 眠る姫君と王弟殿下と竜王陛下と
「レティシア寝たのか?」
「はい。……レーヴェ、ふだん、レティシアに何を言ってるんです? 何か教育に悪いことを……」
本を抱えて、レティシアはフェリスの腕の中で眠っている。
レティシアは幸せそうで満足げだ。
フェリスにねだって、竜王陛下の本を読んでもらい、竜王陛下の声真似をしてもらって喜んでいたのだ。
聞き役レティシアは我儘で、フェリス様ちょっと優しすぎるような……竜王陛下ならもう少し強く言いそうです、などと物言いをつけていた。
レティシアはレーヴェを知らぬはずだがまるでよくレーヴェのことを知っているようだった。
「えー? 何も教育に悪いようなことは言ってないぞ。フェリスの話とかしてるかな? なんかたいした話してない。ちっちゃい癖に、フェリス様は可愛い、とか言ってるレティシアめっちゃ可愛いぞ」
「レティシアには、レーヴェだって言ってないんですよね?」
「言ってない。オレはフェリス家の愛らしい精霊として頑張っている」
「何処も愛らしくないですよ」
「え? 大丈夫。氷の王子な子孫に迫害されてても、オレ、常に愛らしいから。なんかさ、おまえがレティシアの為にサイファ迎えに行ったのが好評らしくて、サリアのオレの神殿にお供えが増えてるぞ」
レーヴェはこれでも神様なので、あらゆるところに、さりげなくいるらしい。
「……何故、僕がサイファを迎えに行くと、レーヴェの神殿にお供えが?」
フェリスも不思議がっている。
「フェリス、オレの末裔だから、フェリス殿下、レティシア姫、大事にしてくれてるのかー、ありがとうー、ディアナの神様、レティシア姫のこと、どうぞよろしく頼みますーって。サリアの王族は可愛くないんだが、サリアの民はわりと可愛い」
「よくわからないですけど、レティシアが大事にされてて、サリアの民が喜んでるなら何よりですが……レティシア、結婚祝われてなかったって落ち込んでましたし……」
「うーん。それはさー、フェリスが悪魔みたいな男だったらどうしよう、あんな小さい姫を生贄みたいに差し出しちゃった……てサリアの民はへこんでたんだよ。民は疫病で疲弊してたとこに、幼すぎるレティシアの結婚話に戸惑ってたし……」
「……それについては反省してます。レティシアがどんなにか怖かったかと思うと。これからはもっといい評判が立つように努めます」
レーヴェの写し身なんて言われていては、義母上が発狂する、と思って、氷の王弟殿下だの、人嫌いだのは、そのままにしてたのだが……。
「フェリス、レティシアのために更生するの巻だな。……よかったな。サイファ奪還でおまえの株、いま、サリアであがりまくってるぞ。フェリス殿下はレティシア姫の母の形見も取り返した! て」
「………? 何故でしょう? レティシアの婚約者である僕の評価があがることで、サリアの民が安心できるならいいのですが」
フェリスにしてみると、レティシアの愛馬も、レティシアの母妃の首飾りも、レティシアのところにあって当然のものだ。
フェリスが褒められるような話ではないが、サリアの民がレティシアの安全を感じられたならよかった。
「サリアの民もレティシアの不遇を感じてたんじゃないか? フェリス殿下がんばってくれーてオレの神殿に祈りに来てたぞ。フェリスの頑張りを、オレに頼まれてもな、だけど。民の期待を、おまえに伝言しとくよ」
「肝に銘じます」
すやすや眠るレティシアの金髪を撫でながら、フェリスは返事をする。
自分のこともままならないので、とても誰かの人生を引き受けられるような自信がなかったのだけれど。
(私は、病めるときも、健やかなるときも、フェリス様と一緒にいるためにここに来ました)
こんな小さなレティシアから、いままで誰からも貰ったことのない言葉をいただいてしまったので。
フェリスはレティシアの人生を引き受ける。彼女の背後にいる人々の思いごと。
婚姻とはそういうものなのであろう。
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