第277話 竜王の眷属とサリアの姫君の婚姻について
「ティナ様の髪は本当にお美しいわ」
「まあ、ありがとうございます、アドリアナ様。髪の傷みに悩んでいた私の為に、家の者が取り寄せてくれたディアナの薔薇のオイルがよかったのだと……」
「ディアナ」
アドリアナは繰り返した。それは従妹のレティシアの嫁ぐ国だ。
「ディアナのフェリス殿下のご領地の薔薇の製品でしょう? なかなか手に入らないのに羨ましいわ」
友人の姫たちが当然のように頷いている。
「アドリアナ様は、従妹のレティシア様がフェリス殿下のもとへ嫁すのですから、きっと特別に優遇して頂けるのではありませんの? 羨ましいですわ」
「あの……、それは、有名なんですの?」
年上の姫たちのうっとりした溜息に、アドリアナは居心地の悪い思いをする。
いつもそうだ。サリアは歴史だけはあれど、それほど豊かな国でもないし、流行の話や品の情報にも疎い。
なので他国の姫たちとの茶会は常に憂鬱だ。
「あら、御存じありませんの? 薔薇の騎士様のご領地の大変高価なお品。私達、アドリアナ様の従妹姫をとても羨んでおりますのよ」
「ああ、どんな魔法を使ったら、ディアナのフェリス殿下の花嫁になどなれるのか!」
「フローレンス大陸で一番美しい王弟殿下の花嫁に! きっと幼いレティシア姫はよほど前世で功徳でも積まれたのですわ」
「あの……フェリス殿下は、とても……とても変わった御方とお伺いしてますが」
愛妾の生んだ第二王子。変人で、ディアナの王太后に疎まれいて、引き籠りのような暮らしをしていると聞かされた。薔薇なぞ作っているとは聞いてない。
「そうね。とても変わっているわね。フェリス殿下は夢のようにお美しい御方だけど、女にも男にもまったく興味のない冷たい御方」
「十五歳までにあらゆる学位をおおさめになったという天才少年ですもの。俗な者とはお話があわないのよ」
「でもあんなにお美しかったら、何も話して下さらなくても、そこにいらして下さるだけでいいわ。ずっと飾っておきたいわ」
「……フェリス殿下は、そんなに、美しい方なんですの?」
「この世に現れたレーヴェ神の現身、と謳われる御方よ。……ラフィーノの描いた肖像画に天井知らずの値がついているわ」
「……どうしてそんな方が、うちのレティシアと……あの……」
聞いてない。
サリアから離れてまで、どうしていつもあの娘にばかり、そんな幸運が訪れるの。
もともと苦手だった。
ちいさな賢い美しいレティシア。
アドリアナにはちっともわからない本を抱えて、ちっともわからない話をしてた、おかしな娘。
「さあ? フェリス殿下があまりにも縁談に興味がないので、義母上のマグダレーナ王太后様が強くお奨めになったのではありませんでした? 羨ましいお話ですわ」
「フェリス殿下の治めるシュヴァリエに我らの国ではとても叶いませんもの。アドリアナ様の従妹の姫レティシア姫は、幼くして、永遠の美と富を約束されたようなもの」
「ディアナ王家の御方は一途で、配偶者を本当に大切になさいますものねぇ」
「私たちには、夢のまた夢の物語よ。アドリアナ様、ぜひぜひ従妹のレティシア姫によろしくお伝えくださいませね。我が地にも、ぜひフェリス殿下とともに遊びにいらして頂きたいですわ」
どういうことなの。
伯父様が病で亡くなって、父様が王になり、アドリアナはサリアの王女になったというのに、何故、いまもあの従妹の小さなレティシアの風下に置かれるの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます