第269話 シュヴァリエの薔薇の姫

「フェリス様、ディアナの方はお魚好きなのですか?」


「そうだね。海の国でもあるし、川の魚もよく使うし、水神のレーヴェを祀ってるからかな? 僕はおいといて、ディアナっ子は基本よく食べよく飲む人々だから、魚や食材の保存の方法とかも、他国に比べて異様に発達してるんだよね。好きな事にはやたら賢くなる土地柄というか……」


「ああ……保存がいろいろできると、海のないところへもお魚運べそうでいいですよね……! そういうことをサリアの人達も学べるといいなあ……」


「そうだね。うちの義母上の意向が何処にあるにせよ、僕達の婚姻によって、これまでよりディアナとサリアは交流を持つ機会が増えるだろうからね。……外交担当にいい人がいてくれるといいんだけど」


やっかい払いでディアナに嫁に出された姫とはいえ、サリアのことは気になる。

叔父様叔母様に嫌がられないように、うまく交流を持てるといいんだけどな。


ううう。


レティシアはサリアの王冠奪還を企ててる!! とか疑われないように、ディアナでは普通のことかもしれない新しい技術などをサリアにうまく流せたらな……。


「レティシア? 僕のお姫様?」


「はい?」


「いちご水が来たよ。……僕と食事しながら、何か、ほかのことを考えてる?」


「いえ。フェリス様とサリアが仲良くできたら、サリアに新しいことが入りそうでいいな……て思ったんですけど、でも私が叔母様や叔父様に嫌われてるからな、と」


和やかな春の晩餐には、ふさわしくない話題になってしまう。

もうお嫁に行った子だから、王位狙ってるとか疑われない? 大丈夫? どうなんだろう?


(そもそも、サリアで疑われてたときから、レティシアは五歳で王位狙うほど、天才じゃなかったのに……中身が日本の現代人とはいえ、王国経営できるほどの才媛ではないから……。でも自分で采配できるかって言うとそこまでの自信はなかったけど、浮かれすぎる叔父様の様子見てると、いろいろと不安になって対抗勢力をたてたい者達の気持ちもわからないではなかった)


「レティシアが嫌な思いをしない程度につきあいたい。レティシアが辛い思いするなら交流もしたくない」


「……だ、大丈夫ですっ。フェリス様、ごはん! ごはん、食べましょう!」


私が嫌な思いすることを想像したのか、フェリス様が碧い瞳をとても哀しそうに曇らせていた。


ダメダメ。フェリス様のレティシア過保護モードが発動したら、きっとそんな話なくなっちゃう。心配しすぎないで、何事も出来る範囲で、ちょっとずつ、ね……。


「いつか美味しいお魚とか、シュヴァリエの薔薇の製品とかがサリアにも並んだら嬉しいです」


「うん。薔薇の製品は、レティシアの成長と共に、薔薇の姫のレティシアの采配にしていくから」


え。そうなの? 

じゃ、レティシア、石鹸や化粧水のことも勉強するべきでは?


「薔薇の姫はシュヴァリエの奥方の意味なんですか?」


きょう、やたら、そう呼ばれた!

薔薇の姫ー可愛いー! て、子供達にまで(君たちのが可愛いよ! と思ってたけど)。


「そう。薔薇祭のコンテストで、毎年一般から今年の薔薇の姫も選ばれるけど、正式にはシュヴァリエの奥方がシュヴァリエの薔薇の姫。だから僕の妃となるレティシアが、僕達の薔薇の姫」


「そ、そんな責任重大そうな……」


街を埋め尽くしていた薔薇の花々、この地を支える、きっと何処までも続く薔薇の畑。レティシア、突然よそから来たのに、その大事な薔薇の姫なんて、……。


「薔薇の花はね、可愛くて強いから、レティシアとそっくりだよ」


褒めてますか? 可愛いより強いの方に重きがおかれてませんか? どちらかと言うと、レティシア、薔薇より、たんぽぽやミモザだと思うんだけど……(雑草系です!!)

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