第264話 シュヴァリエは薔薇の姫を待ち望む

「いえいえ、こちらの女官方とレティシア様が馴染むことも重要、と母も言っておりましたので……あれでもフェリス殿下の乳母ですから、母が来ると皆が母に決定権を譲ってしまいますからね……。フェリス様、レティシア様がお時間あるようでしたら寄って頂けたら嬉しい、という行事のリストを、私、先程、山のように渡されたのですが……」


「うーん。でも、ちゃんと僕の妃として、公式行事に参加となると、レティシアも今日ほどのんびりできないだろうからね……公式には、もう少し落ち着いてからにしようかと……いまのうちはレティシアに遊びながら、シュヴァリエの薔薇祭はこんな雰囲気だよ、て覚えてもらって…」


「左様でございますね。ちゃんと皆も、正式には無理でも、御予定次第で、お忍びでのお立ち寄り熱烈お待ちしております、と書き添えてあります」


「いくつかは正式に出てもいいんだけど、うちもうちもとなるだろうしね……」


可愛いレティシアを正式にお披露目してもあげたいが、王宮では義母上の脅威もあるし、いまは少しのんびりさせてあげたいかな、と。シュヴァリエの皆も、何と言ってもレティシアはまだ幼いので、フェリスの回答にも納得する筈だ。


不安はもちろん、レティシア本人にも、領地の皆にもあるだろうけど、自然にできる範囲でやっていく。


レティシアに無理や背伸びをさせるつもりはない。


フェリスが、五歳でシュヴァリエの領主になったときは、もう少し意地になってたけど、いまは、シュヴァリエの人々とフェリスのあいだに信頼関係があるので、レティシアの成長を急がせなくていい。


「レティシア様には、フェリス様のみならず、まわりの者を優しくさせる力がおありです。私のように、主に温厚さを疑われる随身でも、そっと陰ながらお守りしたくなります」


「そうだね。レティシアは自分では何も望まないで、人の心配ばかりしてるから、こちらが、あれもこれもと、してあげたくなるよね……」


我ながら、たとえ年齢差がなくても、随分ひどい嫁入り先だと思うのだが、レティシアは、毎日フェリスといられて、凄く幸せだと言ってくれる(サリアでレティシアがどんなひどいめにあってたのか本当に心配になる……、レティシアの為に、あのサリア王妃も少し調べておくべきだろうな……)。


愛馬もお気に入りの女官も、みんな一緒に連れて来られて当然のもので、ディアナの感覚で言うならば、こんな幼い姫をたった一人で輿入れさせるサリアという国がどうかしてるのに、フェリスやレイのおかげで、サイファと一緒にいられる、と感激して、御恩返しに燃えてる、うちのちいさなお姫様……。


「レティシア様は、リリアの神殿が壊れたら、民が悲しむと、心を痛めておいででしたね」


「……反省している。あの地下に、随分な数の者達が幽閉されていたので、少々、頭に血が上った」


「とはいえ、『レーヴェ様の神雷』のおかげで、リリア僧に潜入されたディアナに付け入る隙あり、とは他国の方も思わないでしょうから、私は『ディアナへの狼藉へのレーヴェ様のお怒り』は当然だと思っております。我が主に類が及ばなければ、他国の神殿の改装にも何の興味もございません。が、……それでも、あのように、見知らぬ神殿のことを心配をする優しい姫がフェリス様といて下さるのは、フェリス様の為に、いいことだと思っております」


「……僕もそう思う」


フェリスは、普通の人が持っていないような魔力を持っていて、自分だけの判断だと、ときには、その魔力の使い道に迷うので。


優しいレティシアが傍らにいて、フェリスが思いつかぬようなことを言ってくれるのは、フェリスもいいことだと思う……。

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