第263話 温厚な随身は主の花嫁を愛す

情報は、魔力の網を通して、一夜にして、フローレンス大陸を駆け巡る。

正確であるか、歪曲されてるか、曲解されているか、はともかくとして。


「フェリス様。レティシア様を薔薇祭にお連れしてようございましたね。レティシア様が可愛らしいので、シュヴァリエの人々に大人気でしたね」


「そうだね。ディアナに来るなり、レティシアには苦労ばかりかけてるから、ここで少しでもレティシアにくつろいでもらえるといいな……」


フェリスとレティシアが楽しげだったのがよくなかったのか、義母上がわざわざ御茶会を開いてレティシアを招いて、フェリスよ、側妃を選んではどうだだの言い出したのが謎過ぎた……。


フェリスの性格的に、そんなことを受けいれないことは、義母上はわかっていると思うのだが、あれはただレティシアの反応を見たかったのか、意地悪したかっただけなのか……。


可愛らしいレティシアが、義母上に負けない、へこたれない姫でよかった……。


結婚前から、側妃だ、謹慎だ、とろくな話題がなくて、大人の姫にすら愛想をつかされそうな状況なのだが、ちいさなレティシアは元気にフェリスの宮をくまのぬいぐるみを抱えてパタパタと歩き回り、フェリスの食事の心配ばかりしている。


「レイ、さっき僕と二人でいたときも、レティシアがレイにとても感謝してたよ。サイファのことを調べて、危険を知らせて下さって嬉しいって。いつか、この御恩は返すので! て……」


「レティシア様が、愛馬をとり戻せて、本当に嬉しそうで、私も嬉しゅうございます。恩などと、滅相もございません。それにつけても、サリアの情報の混乱具合には、この温厚な私もいささか苛立ちました。」


「うちのレイは、いつ温厚だったんだ……?」


フェリスは素朴な疑問を口にする。

うちの随身は有能だとは思うが、果たして温厚な部類なんだろうか?


「私は常に、春の日差しのように、温厚でございますとも。……フェリス様との婚姻が結ばれる前に、レティシア様をサリアの女王にと推そうとする派閥があって、それが為にレティシア様はひどく迫害されたようですが、それ故に返信が遅いのか、それともただ単にもとから怠慢なのか、非常に疑問に思いました」


「サリア王妃も奇妙な方だったしね……。きっと亡くなった先代のサリア王と王妃がよい方で、レティシアはあんな風に優しい子に育ったんだろうね」


「我が母サキが、フェリス様のお嫁様ですから、どんな姫君がいらしても何より大切にする心づもりでしたが、想像以上に、可愛らしくてお優しい御気性のレティシア様がいらしゃって、毎日が楽しくて仕方ないと申しておりました。今頃、王宮で寂しがっているでしょう」


「そうだね。やはり、サキも連れて来てやるべきだったかな……」


あれこれとレティシアを迎える支度をしていた頃、きっと可愛い花嫁様がいらっしゃいますよ、フェリス様、と乳母のサキは予言したのだが、レティシアに逢う前のフェリスは未来を思い描けなかった。


こんな小さな嵐のような可愛い人がやって来るとは思ってなかったので。

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