第261話 偏屈なシュヴァリエの年若い領主について

「マグダレーナ様があまり親切でない御心で、レティシア様をフェリス様に薦められたと私共も噂で伺っておりますが」


「うん」


レティシア自身も、話を聞いていて、レティシアはまるでフェリス様を縛る鎖のようだと思った。


「フェリス様は、幼くして御両親を亡くされたレティシア様の事を考えて、……私共にも、もし姫にとって王宮が窮屈なようなら、レティシア姫をこちらで育てるかも知れないから、とお話されてました」


「フェリス様が……?」


フェリス様はどうしてそんなにレティシアに優しくして下さるんだろう? 十七歳にして、子育ての環境心配しちゃう、フェリスパパ……。レティシア、フェリス様の子供でもないのに……。


「フェリス様って過保護だよね……」


誰にでも過保護なのか、お嫁さんだからレティシアにはとくべつ過保護なのか、わからないけど。


リリア僧のところに潜入捜査に行った時も、そんなに危なくなさそうだったのに、気が淀んでいて、僕のレティシアが穢れる、てレティシアはすぐおうちに返品されちゃったんだよ(いまだにちょっと不満ー。


でも我儘いって連れてってもらっただけなので文句言わないー)


「元来、お優しい方なのですよ。お顔立ちが整いすぎて、冷たい方だと誤解されがちですが」


「うん! 私もそう思う!」


きゃー、 推しトーク満喫! ハンナさん、好き!


フェリス様がもっと優しいとこを世間にも伝えたいの。


どう考えても、キャラ的に氷の王子ではないと思うの。


「僕は王宮で義母上のささいな言葉に心が塞いでも、シュヴァリエに馬を走らせて、朝から晩まで薔薇畑で一日の大半を過ごす民たちを見ていると、自分の悩みがいつも小さいと思える。我が地の民たちのために、王宮や他国との交渉で、誰よりも有利な条件を勝ち取りたいと思うし、気紛れな天候から、皆が丹精込めている畑を守りたいと思う。僕の下手な言葉などより、シュヴァリエの美しい風景は、ちいさな姫の心も身体も強くするはず、と。……昔、皆が、少年の僕に力をくれたように、レティシア姫にも、シュヴァリエの力を分けてやってくれると嬉しい、と」


「………、」


レティシアからの熱い抱擁が落ち着いたのち、鏡の前でレティシアの金髪を梳いてくれながら、ハンナが話す言葉に、だんだん、レティシアの白い頬がぱーっと紅く染まっていった。


レティシアは、フェリス様のこと、どんな人だろう、とか、怖いなー、とか、ここに来る前、そんな風にしか思ってなかったのに。


フェリス様は、遠くから一人で来るちいさな婚約者殿を、どうやったら元気にできるだろう? て考えてくれてたんだ。


「僕はおもしろい男でもないし怖い貌だし、レティシア姫は僕を怖がるかも知れないしね……と心配しておいででした」


「……私、生まれてから、こんなに綺麗な人を見たのは初めて! と思いました! フェリス様、聡明なのに、御自分への評価だけ、ちょっと変じゃないですか?」


「ですよね」


ハンナも笑ってる。


「僕がちいさな女の子に人気をとれると思えない、と案じてらっしゃいましたが……」


「さっきも、街で、フェリス様のお嫁さん希望の子だらけでしたよー!  女の子も男の子も」


可愛かったなー、ちびちゃんたち。


「そうなんですよね。フェリス様、お暇な時は、当地の子供達に魔法や文字も教えて下さるので、シュヴァリエの大人達のみならず子供達にも人気なのですが……あんな風に仰るなんて、よほどフェリス様、王宮でひどいめにあってるのでは!?  もう王都になど行かせたくない! と私共もいつも憤慨してます」


それは…、そんなこと困ります! ちゃんとうちのフェリス様を王宮に帰して下さい! と、リタやサキから反論があるかも知れない……。


「フェリス様が領民さんととっても仲良しで、お祭り歩いてても、私も嬉しくなりました」


意外だった!


変な話、フェリス様、王族なんだし、もっとだいぶ距離感のある領主様かと思ってたら、うっかりシュヴァリエの街の若者なみの距離なし感だった!


「こちらはみな田舎者なので、フェリス様がお優しいことに甘えていて、王都の方のように礼儀がなっていないかもしれないのですが……、どうぞここにいるときは、レティシア様も、王宮の窮屈なお作法は忘れて、のんびりお過ごしくださいね」


「はい」


何より、サイファも連れてきてもらったばかりで、ディアナ王宮の厩舎はサイファにも肩がこったかもしれないので、ちょっと長閑なこちらの厩舎でよかったな~と鏡の中のレティシアは、ハンナの優しい声と手と、推しのフェリス様ベタ褒めトークに、大ご機嫌の笑顔だった。


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