第259話 我儘王子と甘えた姫

「サイファは大事な友達なのですが、フェリス様は、どうしてサイファのこと気にかけて下さったのですか?」


「僕に、サイファの話をしたときのレティシアの表情がね」


レティシアを軽々と抱いて、フェリスは夕闇の降りて来た芝生の上を歩く。


「私の……?」


「父様と母様と、サイファと、二ホンの話。その三つが、一番、レティシア、切なそうな表情をしてた」


「………、」


母様と父様とサイファは今生の話。


日本の話で切ない顔してるなんて、自分では知らなかった。


ただ愛おしく懐かしい、とだけ思ってた。


この界とは違う故郷の思い出を、誰とも共有できないのが、ほんの少しだけ寂しいけれど……と。


「僕の姫君は、まだ僕に心を許してはくれないから。きっと心に望みがあっても、僕に言えない」


「……!? そんなことないです!  許してます許してます!  全力で信頼してます、フェリスさま」


本当だもん!

フェリス様のこと一番信じてるよ!

だって、他に信頼できる人なんて、いないし……。


「本当? でも僕は髪飾りひとつ、レティシアからねだられたこともないんだよ」


「髪飾り? ですか?」


婚約者に髪飾りをねだるのが、もしや、ディアナの女性の信頼の証とか?


ちょっとリタとかに聞いておくべき?


宝石箱に髪飾りはいっぱいあるけど、それが風習なら、全力でフェリス様にねだりたい。


毎日、庭の薔薇でいいので、フェリス様の手で摘んで、私の髪に飾って下さい、とねだるよ……(ローコスト)。


「レティシアは僕を我儘にしたい、て言ってくれたけど」


うん。

だって、フェリス様、人生遠慮しすぎでは、と思ったので。


そのときのことを思い出したのか、フェリス様が微笑っている。


「僕はレティシアに甘えられたい」


我儘なフェリス様と甘え上手なレティシア?


なかなかにどちらも難易度高いような……。


「でも、私、毎日、フェリス様に甘えてると……」


「本当? いつ?」


「だって、美味しい御菓子食べるとフェリス様にも食べさせたいて思うし、フェリス様出かけてらっしゃると、フェリス様早く帰って来ないかなって思うし、すぐフェリス様の部屋にごはんちゃんと食べろーって夜襲かけたくなるし……そういうのは、甘えてる、て言いませんか?」


フェリス様のせいで、孤高の王女が台無しだもん。


フェリス様がいないと寂しいなって。


そんなだいぶ甘えた娘になってしまった。


「……レティシアの甘えてるって……、ダメだ、可愛すぎて……」


また爆笑ポイントでしたか? と思ったけど、今日のフェリス様は、凄く優しそうに笑ってたけど、笑い上戸ではなかった。


「大好きだよ、レティシア」


レティシアのおでこにフェリスのキスが降りてきた。


「……私の方が、大好きです!!」


なんだかわからないけど、レティシアが甘えてくれない、て拗ねてたフェリス様の御機嫌なおった? かも?


それにしても髪飾りについては、リタやレイに調査を要す。




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