第258話 御祝いは豪華に
「陛下。ガレリアのリリア神殿倒壊へのお見舞い、如何いたしますか?」
「そりゃあ送るだろう。馬鹿だなあ、ヴォイド。眠れるフェリスに、わざわざ喧嘩売るなんて、命知らずな奴だなあ、て失笑しつつも、見舞いも送らなんだらうちがヒトデナシになる。もっともディアナと揉めるんなら、うちはディアナにつくがな」
森の王国セイシェルの国王リヒトは、二十五歳と若い。
昨年、父の死とともに、国王を継いだ。
「やはりディアナのお怒りとお考えですか? ディアナ側は否定してるようですが」
リヒトの側近、シャルが王に問う。
「ちょうどディアナでやらかしたガレリアの僧たちが捕まった夜なんだろう? あんな不自然な雷、天災だと思うのは、人が好過ぎる。間抜けなガレリアの魔導師たちとて、幾ら何でも天に結界くらい張ってるだろう」
「左様ですねぇ。一部とはいえ、王都の神殿が破壊されてますから、外聞の悪さこの上もないというか……、ディアナの王弟殿下というのは、やはり、別格の魔力なのですか? 陛下は、ディアナに暫く御遊学されて、フェリス殿下とともに魔法の講義を受けたりなさったんですよね……」
「別格も別格。あれは人の魔法の域じゃない。普通は腕を上げに魔法を学びに行くんだが、フェリス、途中でどうもこれはまずい、と気が付いて、出来ない振りに切り替えてたからな。……怒らせなければ、ごく穏やかな男だし、あいつは兄者のマリウス贔屓だから、黒子に徹してるしな」
「何やらマリウス陛下に悪しき噂も流布したとのこと……、我が国でもリリア僧への警戒度をさらにあげておりますが」
「面倒そうなら、全リリア僧を国外退去にして、我が国から放り出してやれ。いちいち善良か悪質か調べるより楽だ。……ディアナでやってた話を聞けば、僧にみたてたガレリアの兵と言っても、過言ではあるまい。……ヴォイドは随分おかしなことを考えるな? マリウスをディアナ王にしとくほうが、何かと怖くないと思うがな。あれは平和な男だし。余ならフェリスとは喧嘩したくない。ディアナ正規軍の数の多さ以前の問題だ」
「ガレリアが、ディアナ転覆を、本当に画策してらしたとしたら、なかなかに勇者すぎますよね……あんな古くて強固な国……」
「ディアナは隙のない国だし、何よりディアナを傷つけて、ディアナに甘いレーヴェ神に呪われるのが、魔法と親しい国の人間ならば怖い。竜は蛇のように、受けた恩も仇も忘れぬ生き物だ。ヴォイドは、わりとそのへんに無頓着なんだろうな。でないと怖ろしくて、できない」
「……ガレリアだけにお見舞いを送って、仲を誤解されるのも嫌ですから、ディアナに……そうですね、フェリス殿下の結婚祝いを、さらに盛大に贈っておきますか?」
「うんざりするほど豪奢にして贈ってやれ。どうやらフェリスは、サリアのちい姫を、いたく可愛がってるらしいから、何処もきっと派手に祝い出すぞ。フェリスが望んでない結婚なら、騒ぐのも何だしと控えめに祝ってたからな」
リヒト自身が若いので、あの怖い程、無表情な美貌の少年だったフェリスが、小国から来た幼い花嫁を大事にしてると聞くと、愉快過ぎて、いますぐにでも覗きに行きたい。
あの、自分を口説こうとする相手の全てを虫けらのように見ていたフェリスがなあ。
(当然、美貌だったので、男からも女からもよく口説かれていた。フェリス自身は黙殺していたが)
人間は、意外性で出来ているもだなあ、と、他人事なので大変面白がっている。
だが、リリア僧の暗躍など、とくに意外でもなければ、面白くも何ともないので、
とっととセイシェル国内からもついでに一掃したい。
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