第252話 紅玉の首飾りについて

「お仕事と言えば……、フェリス様、レティシアもお仕事がしたいです」


「………? レティシアが?」


レティシアが真面目にフェリスの貌を見上げて尋ねると、 フェリスは ん? と小首を傾げてる。


「まだちょっと早すぎない?」


「そうですよ。レティシア様。当家が、幼年者に過度な労働を強いている疑いをかけられます。シュヴァリエは、そのあたり、うるさいんですよ」


「フェリス様は五歳から、シュヴァリエの当主として働いてたのに?」


んんん? とレティシアは首を四十五度傾ける。


首が痛くなるよ、とフェリスが、レティシアの金髪に手を添えている。


「僕は自主的なワーカーホリックだから例外かな?」


「私も自主的です。だって、今日、イザベラ叔母様に差し上げた紅玉の首飾り、とても高価そうでした。お仕事して、フェリス様に首飾りの御代をお返ししたいです」


「……大きくなって、いろんなお仕事できるように、いまは勉強に時間を割いたほうがよくない? どうしてもなら、僕の部屋で、書類の整理とか、御茶の御相手とかして欲しい」


「……それはなんだか、私とフェリス様の癒着ぽくないですか?」


そんな孫のお手伝いのような仕事で、あの首飾りの対価を払えるだろうか……。


「癒着ではないよ。レティシアがお手伝いしてくれたら、きっと僕の仕事が捗ると思うよ。それにね、あの紅玉の首飾りに関しては、ちょっと、いわくつきの問題児だから、そんなに気にする必要ないよ」


「いわくつき?」


「……呪われないといいですよね、イザベラ王妃」


「あの紅玉の首飾りの所有者に、何件か不幸な事件が続いてね、呪いでもかかってないか、て怖がられて僕のところに廻って来たんだけど、……とくに何も呪術もかかってないし、悪いものが憑いてもいないんだよね……。我が家では何も悪さしてないし、どちらかというと、僕はあれを持ってるときにレティシアと出会ってるから、僕には幸運を運んでくれたほうだし……故に、イザベラ叔母様に差し上げても大丈夫だろう、と御贈りしたんだけど……」


フェリス様、そんな祓い屋さんのようなことまで……。

多機能だからって、何でも頼まれ過ぎなのでは……。


「でも、当家は、当世最高峰の魔導士のフェリス様もいらっしゃいますし、何と言っても、ディアナで一、二を争って竜王陛下に守護されてる宮だと思いますから、……悪戯好きの紅玉も怖がって悪い事しなかっただけでは? と私などは思いますけどねぇ。まあ、大丈夫ですよ、サリア王妃様が、心の清い方であれば心配ございません。何故か不幸にあわれた方々は、ディアナ宮廷でも指折りの悪名高い方々でしたから。因果応報と申しますか」


「心の清い……イザベラ叔母様……?」


それは、レティシア的には、首が傾きまくってしまいそうだ。


うーん。うーん。うーん……。


叔母様はちょっと天使のようではないの……。


なんか壊れちゃったの、王妃様になってから。


「……呪いの首飾りなのですか?」


でも、心は清くないイザベラ叔母様だけど、母様の首飾りと取り換えた紅玉の首飾りの呪いで怪死とかはいやだ……。


優しい母様が、悲しみそう……。


「いや、僕以外も、魔法省で鑑定したけど、本当に呪いなどはかかってない。ただ、周囲の気配には染まりやすい宝石かも知れない。大丈夫だよ。もしレティシアが心配なら、悪いことしないように、月の綺麗な夜にでも、あの子に言い聞かせておくから」


国を超えて、困った宝石に言い聞かせる気のフェリス様……、可愛いのか妖しいのか、確かにまあサリアの人の感覚的には、変人と言われそうだ。


「そのような、少々、問題児の首飾りですので、そんなにレティシア様が、働いてまで返済など気負われる必要はございません。……それに、レティシア様は当家の奥方になられる御方。フェリス様御所有の品は、レティシア様の財産でもございますので、どうか、お気になさいますな。……いまからお仕事されるより、たくさん学問なさって、優れた差配を身に着けて下さいませ」


「レティシア」


「はい?」


うちのうるさ型のレイは、普段こんなこと言わないから、これはレティシアをとても気に入って、将来を期待してるからだよ、とフェリス様が耳元に囁いてくれた。


耳にかかるフェリス様の吐息と、フェリス様とレイの優しさと、ぜんぶがくすぐったかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る