第251話 ディアナの娘、レーヴェの娘

「おうちに……」


「うん………?」


「サイファを連れて、ディアナのおうちに帰りたい、て思ってました。このあいだまで、あそこが、サリアのあの宮殿が、私の家だったのに」


フェリス様が家庭的かって言うと、伝説とか王宮とか神話とかとかは相性はいいけど、隣に、家庭、て言葉を並べると、………? てAIが躊躇いそうな華麗な御姿なんだけど。


でも、フェリス様は、レティシアと一緒にごはんを食べようとしてくれる。


普通の人なら、恋に青春にいまが一番楽しいはずの十七歳なのに、こんなちびっこを押し付けられて、うんざりしててもおかしくないのに、レティシアのことを一番に考えてくれる。


華麗な御姿に似合わず、フェリス様お人好しすぎて、放っておけない……。


新しい、大事な、レティシアのたったひとりの家族……。


「竜の国の娘は、何処にいても、竜の神の守護をうける。このさき、何処へ行こうとも、ここが還るところになる。……レティシアは、僕の妃、レーヴェの娘になるから、何処に居ようとも、ディアナが、レティシアの家になる」


耳元に響くフェリス様の声は、サリア神殿の神官様よりよほど呪力がありそうで……。


「だから、サリアには帰さない。もう、レティシアはうちの子だから」


「フェリス様………、」


うちの子。フェリス様のおうちの子。その言葉が、父様と母様を失って、ずっと冷たかったちいさな身体を満たしていく。


「…もう帰るところはないので、レティシアは、フェリス様のおうちので、レーヴェ様の娘でいられるのはとっても嬉しいのですが……」


でも、何だか、いろいろ心配だな。


最愛のサイファだけでなく、サリアにあるすべてのものが、いま、あまりいい配慮をされてないのではないかと……。


仮初にも、もとサリアの王女としては、心にかかる……。


きっと叔父様たちには、余計な心配だろうけれど……。


「もう少し、サリアにも魔導士や、治療士の数が増えるといいかも知れないね。ずいぶん数が少ないようだ。情報を共有するにしても、物を移動させるにしても、少し不便だ。サリアでは魔導士が少ないから、行くと、いい仕事につけるかも、とその界隈に話を広めておくかな……」


「サリアの払う報酬で、サリアに来てくれる有望な方はいるでしょうか……」


そもそもサリアの、もともとの通貨の価値が低くて……。


「魔導士なんて変わり者だらけだから、金銭だけで動く訳ではないからね。サリアにしかない植物や、生き物や、風習に興味を惹かれる者もいると思うよ。それに、ああいう魔術と縁のない御国柄だと、ディアナではたいして褒めて貰えない魔術師でも、サリアではとても大事にされて遣り甲斐感じるんじゃないかな? 悪いのが行って威張っちゃったら困るけど、よいものが行ったらいい結果になると思う」


げ、現実的な話だ……。


サリアは魔法で国が乱れることを怖れて、魔法を皆が学ぶことを制限してきたけれど、そのせいで魔法の盛んな国よりは、少し進化が遅れてしまった。


父様や母様や、多くのサリアの国民の命を奪った感染症に対しても、高度な魔導士や治療士の層が厚ければ、もっと強固に防御できたのでは? とレティシアも悔しい。


「あまり僕が余計な干渉してはいけないだろうけれど、僕の妃の国では、魔導士の数がずいぶん少ないようだ、と、何処かで話すくらいなら罪ではないだろう?」


「ディアナで仕事に悩んでいる、良質な魔導士や治療士のお耳に届くといいですね」


レイが穏やかに相槌をうつ。


「そう。ディアナはいいところなんだけど、人が多すぎて、息苦しい思いをしている者もいるからね」


レティシアが言うのもなんだけど、うちの旦那様、ホントに十七歳なのかしら……?


でも、嬉しいな。


フェリス様が、レティシアの生まれた国、サリアのことも、気にかけてくれて……。

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