第250話 孤高の天才に懐かれるタイプ
レティシアにフェリス様はもったいないて言われたら、うん確かに、うちの推し様にはもっと妙齢の美姫を……とは思うんだけど、アドリアナとイザベラ叔母様はダメぜったい!!
それじゃ、フェリス様が全然幸せになれないもん!
ミニ王太后様が増えるようなものって言うか……もっと性質悪いって言うか……。
自分の親族にこんなこというのもなんだけど、決してお奨めできない……。
「サイファはレティシアには大きくない?」
レティシアは、イザベラ叔母様とアドリアナの心配をしていたが、フェリス様はその二人にはちっとも興味なさそうだった。
おおいなる無関心というか、イザベラ叔母様と話してた時も、ご親族にご挨拶と口上を述べながら、薔薇祭のいちご飴屋さんと話してるより遠い印象だった……。
(いえ、うちの叔母君と違って、いちご飴屋さん、ご領地の方だし、小さな頃からフェリス様と親しいのかもだけど……)
「……サイファはとっても血統もいい優秀な子なのですが、難しい気性で、誰も乗せたがらなくて」
とはいえ、私も、叔母様の話より、サイファのことを尋ねられると、唇が綻んでしまう。
サイファのお話したいの。
大好きなフェリス様のお話を誰かにしたいように、大好きなサイファのお話も誰かにしたいの。
「サリアのどんな騎士もサイファのお眼鏡に叶わなくて困ってた折に、ちょうど、私が馬屋に遊びに寄ってて……サイファには、そんなちいさな子が珍しかったらしくて、私にはとても優しくしてくれて……」
「もともとレティシアの馬として選ばれてた訳ではないんだ……そうだよね、大きいものね」
フェリス様がくつろいだ様子で金髪を掻き揚げてる。
とっても綺麗!
そうなの。
私、フェリス様を見て、綺麗! て思うみたいに、サイファを見て、綺麗! て思うの。
変かな!?
「はい。レティシア様には懐いてるみたいだから、乗ってみますか? て言われて、手伝ってもらって、乗せて貰ったら、私達はとても、気があって……」
幸せだったなー。
レティシアには大きすぎない? て心配する母様や父様に御願いして、許可を貰って、サイファはレティシアのものになったの。
私達は仲良しで、皆の心配をよそに、サイファは一度も私を怪我させたりしなかった。
サイファは誰の言う事も聞かなかっただけで、とても賢い子ですからね、レティシア様をとても大事にしてるのがわかりますよ、と調教師たちが言ってた。
従妹のアドリアナが、サイファを欲しがってたとは、夢にも知らなかった。
何故かアドリアナはレティシアを嫌ってたから、レティシアと仲良しのサイファも好きじゃないのかと思ってた。
「サイファが、レティシアを選んだんだね。……レイよ、何を笑ってるんだ?」
「いえ。あの。……どなた様かにそっくりだなあ、と。レティシア様は、気難しい孤高の生き物を懐かせる魔法をお持ちなのだなあ……と」
「……僕は馬か」
「フェリス様も、たくさんの御令嬢のお誘いを袖になさってたじゃないですか」
「……僕はサイファと違って選んでた訳ではなくて……」
フェリス様が言葉に困っている。
レティシアもちょっと興味深い、と思って、フェリス様を見上げてる。
「フェリス様は、たくさん求婚、断ってらしたのですか? どんな姫君が御好みなのですか?」
そうね!
イザベラ叔母様も後から慌てるくらい、こんなに素敵なフェリス様だもの。
私の推し様、たくさんお話あって当然!
サイファみたいに、いっぱいいやいや言ってたのかなー。
サイファが、どうしてレティシアを選んだのかはわからない。
でも、レティシアを凄く愛してくれてることはわかった。
サイファとは同じ言葉を持ってないけど、ちゃんとわかるの。
フェリス様はレティシアを選んだ訳じゃなくて、不可抗力だけど……。
「僕の為に、うちの義母上に喧嘩売ってくれるようなお姫様」
「………!! そ、そんなお馬鹿さんは、私くらいでは……」
国母に逆らうことは誰も許されない。
国の母たる人だから。
「そう。だから、レイが笑うように、僕もサイファのように、レティシアを取り上げられたら、飢え死にするよ。だから、何処にもいかないで」
どっちもカッコいいけど、サイファとフェリス様は、全然、違うと思うの……。
でもきっと、レティシアが、イザベラ叔母様に逢って、凄く動揺してるから、
フェリス様、甘やかして、あやしてくれてるのかなー?
やはりもうサリアには何処にもレティシアの帰れる場所はないのだと思うと同時に、一刻でも早くサイファを連れて、ディアナに帰りたいって思った。
失くした故郷のかわりに、新しい家ができたようで嬉しい。
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