第248話 やっぱり、おうちがいい

「フェリス……さ、ま……! ありが、…………! サイファ……気に、し……!」


 レティシアがフェリス様のところで、幸せだなーていちご食べてるあいだに、サイファはごはんも食べられなくなってたのだ。


 フェリス様が気にして下さらなかったら、サイファは、あのまま……。


「そんなに泣いたら、目が溶けちゃうよ、レティシア」


「溶け、ませ……ありが……うぇ……うぇ……」


 シュヴァリエに帰って来たのに、ここはもうフェリス様のおうちで安全なのに、しゃくりあげがとまらない。


 サイファはあんなに弱ってたし、叔母様はいつも以上に変で怖かった。


 (お父様お母様が亡くなってからずっと変だけど、今日はまた違った意味で変だったような……?)


 何より、もうちょっと遅かったら、サイファが……。


「びっくりしたね、レティシア、ごめんね。サイファが元気になってから逢わせるべきだった」


「そんなこと、な……」


ちゃんと、残されたサイファが辛い思いしてたの、わかった方がよかった。


レティシアがひとりで無理してたみたいに、レティシアに内緒で、サイファも無理してくれてたのだ。


「はい、レティシアの首飾り」


琥珀の首飾りをフェリス様がレティシアの首にかけてくれる。


母様。母様。母様。


お帰りなさい、母様。


お帰りなさい!!


「綺麗だね。レティシアの瞳と同じ色だ」


「う…、えっ……、かあさま………」


綺麗でしょう、レティシアの瞳と同じ色……。


母様と同じことを言うフェリス様。嬉しい。母様の大事な首飾り。


それこそ古いタイプのデザインだと思うの。琥珀は、紅玉石みたいに皆に奪い合われるような石でもないし、でもレティシアと母様にとっては大事なものなの。


「フェリス様、さらにお泣かせしてどうするのです。ハンナを呼びましょうか?」


「へ……い……き」


ふるふる、レティシアは首を振る。長い金髪がさらさら揺れる。


「レイ、レティシアが落ち着いてから、後日、暇な時に、目録を作るのを手伝ってもらってくれ」


「もくろく……?」


「サリアのレティシアの婚礼担当の者は、どうも失念や紛失が多いようだ。レティシアが母上から受け継いでいるはずの宝石類や、形見の品々の一式が、いっさいこちらに届いていない。誰か不埒者の担当者が、どこかに置き忘れているのだろう」


「ああ。それはぜひとも、鬼の問い合わせかけるべき案件ですよね」


「フェリスさ、ま、それ、は、忘れてるんじゃ……なく、て……わたしにはなにも…頂けなくて……」


我が家の恥を申し上げるのは、残念だけど……。


「私の妃の財産を、幼いからと不当に搾取しようなんて、この世にそんな愚か者がいたら、己の所業を、死ぬほど後悔させて差しあげるよ。……でも、きっと、忘れてらっしゃるんだよ。問い合わせてみようね?」


「………、………」


微笑んでらっしゃるけど、いつも優しいフェリス様がそこはかとなく怖い……、き、気のせい……?


「フェリス様、牙が出てますよ。レティシア様に怯えられますよ。……ご安心ください、レティシア様、きっとお忘れですよね? と問い合わせれば、向こう様が反省して返して下さると思うんです。……というか、その時点で戻した方が、向こう様の身の為だと思います」


そんなこと、あるのかな……。でも、さっきの叔母様も、嘘みたいに素直だったな……。いくつかでも、返って来ると嬉しいな、母様のもの。父様のものは前王としてのものも多いから、持ち出し無理でも仕方ないとしても…。


「フェリス様。フェリス様。たくさんたくさんありがとうですが、何よりも、サイファを生かして下さってありがとうございます」


「……レティシア、そんなひどく他人行儀な御礼、寂しい」


「えええ? ど、どんなのが嬉しいですか?」


 また謎の拗ね方をしてるフェリス様……。


「嬉しい! だけでいいんだよ。レティシアのものは僕のものなんだから、僕が取り戻して、当然」


「………? フェリス様いい人なのに、そこはかとなく、悪そうに聞こえるのは何故でしょう……?」


「基本、レティシアにいい人に思われたいだけの、悪い人だからかも」


「悪い人は、婚約者の馬の心配までしてくれません……」


えぐ、とレティシアがまた泣きそうになっていたら、フェリス様が涙を舐めてくれた。


「ふ、フェリスさま。涙、美味しくないです」


「……甘いよ? レティシアの大事な友達との再会の涙だからね」


おでことおでこをあわせながら、泣き疲れたレティシアは、フェリスから少し魔力を分けて貰い、喜びの涙の中で、学んだ。


大事な友達を、敵陣に置き去りにしちゃ、ダメだった。大、反省。

(敵陣はあんまりだけど、味方とは言い難い……)。


フェリス様は、嘘をつかない。

(レティシアの愛馬をディアナへ)

初めて逢った日の、あの戯れのような言葉は、真実だったのだ。


レーヴェがこっそり、それはどうだろうな~? 嘘は言わないけど、大好きなレティシアに言ってないことはいろいろあるかもな~? と苦笑しつつ、涙のとまらないサリアの王女、いやもう既に、ディアナの王子妃のレティシアの金髪を、おかえり、オレの愛しい娘、大変だったな、ずっと一人で、と優しい祝福を込めて撫でた。


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