第243話 たくましい姫君
「薔薇がたくさん売ってますね」
赤、白、ピンク、黄色、珍しい紫色の薔薇など、色とりどりの薔薇がそこかしこに飾られ、そして木箱に詰められて販売されている。
「そう、この薔薇祭の一か月の間は、名高いシュヴァリエの薔薇や、シュヴァリエの薔薇を使った製品を買い付けに来る者が多いからね。お祭りであり、展示会であり、楽しむ民もいれば、一年で一番の仕事に励む民も多い。普段のシュヴァリエにはね、こんなに外部の者は入らないから、レティシアもこちらに慣れたら、のんびり薔薇畑をお散歩できるよ」
「……素敵です! 薔薇畑を歩くために、私も、農家の方のような、たくさん歩ける靴が欲しいです!」
レティシアとしては、ここで身体を鍛えたいわ!
やはり、筋肉は肉体の礎、鎧!
身体を鍛え、武芸と魔法の技を磨き、いつ愛しのフェリス様が、運命の恋に出逢われて、レティシアがお邪魔になっても、立派に自立できるようにしておきたいわ!
これから結婚しようというのに、しかも大好きなフェリスとの結婚に大乗り気なわりには、前向きなのか後ろ向きなのか、謎なレティシアであるが、本人いたって大真面目である
「うん。もちろんレティシアが歩きやすい靴を用意させるよ。……でも」
フェリスが碧い瞳でレティシアを見下ろす。
「でも?」
ふわっとレティシアは首を傾げる。
フェリス様の瞳の碧、綺麗。よく晴れたこのお空と同じ色、と思いながら。
「鳥のように、僕のところから、何処かに逃げてしまわないでね、レティシア」
「??? 何処にも行きません。レティシアがフェリス様のお邪魔にならないかぎりは」
いざや、というときの為、自立の鍛錬はせっせと積む予定ですが……。
「本当に? レティシア、何か悪い事考えてない?」
「考えておりません。フェリス様は疑い深いです。レティシアの靴はたくさん歩きにくいのです」
ぷくっと頬を膨らませて、拗ねた振りで、レティシアは誤魔化す。
いつかフェリス様が運命の恋に出逢われたら、とこのあいのだの夜、話してたら、そんなに僕と離婚したいの? とフェリス様が拗ねてしまわれたので、うーん、確かに、結婚前から離婚の話をするのはよくないかも?と反省してるのだ。
でも、こんなに優しいフェリス様と、ずっと一緒にいられるなんて、そんな甘い夢はどうも信じられないので(齢五歳にして、人生、不幸に慣れ過ぎている……)、人生、何が起ころうとも万全の備えあれば、憂いなし!! なのだ。
「フェリス様、たくましい妃はお嫌ですか?」
「たくましい……?」
「身体を鍛えたいと思いました。もしや、フェリス様が華奢なお妃がお好みの場合には、悪行かも知れません……」
「健やかなのはいいことだよ。どう鍛えても、レティシアが熊のような大男にはならないだろうし……」
フェリス様が堪えきれないといいたげに笑いだした。
「フェリス様?」
「レティシアの悪行は身体を鍛えることなのか、と、か、可愛すぎて……」
フェリス様。
レティシアはだいぶ慣れましたが、笑ってるフェリス様を、ちょっと珍しそうに街の方々が控えめに眺めてらっしゃいますが、大丈夫でしょうか……。
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