第242話 薔薇祭の街を二人で歩く
「レティシア、歩きにくくない?」
「はい」
フェリスとレティシアは手を繋いで、春のお祭りに華やぐ街を歩く。
建物の窓や玄関にも、路上にも、そこかしこに飾られた薔薇の花で溢れている。
薔薇、食べ物、雑貨、いろんな屋台が出ている。
可愛いもの、綺麗なもの、新鮮なもの、珍しいもの、がたくさん!!
レティシア、歩くの大変じゃない? 肩に乗せてもいいよ、いろいろ見えやすいかも、とフェリス様に薦められたけど、それは遠慮した。
仲良し! と言うより、基本、フェリス様は、雑踏だと、出来るだけ自分に密着しててくれた方が、何かあった時にレティシアを守りやすい、て思考みたい。
それはまあ、フェリス様とレティシア二人を守るよりは、ほぼ一体化してたほうが防御しやすい、のは原理としてわかるんだけど……現状、そこまで危険な街にも見えないから、ちょっとだけ、大人だから、自分で歩きたいというレティシアの見栄です!!
でも、手は繋いでもらってたほうが、安心する。
生まれたところから、遠い遠いところまで来たから、やっぱり不安。
(最近のレティシアが、ちょっと強くなってるのは、ずっと一緒にいるフェリス様の性質が影響してるのでは……)
レティシアは五歳で、王宮から出ることもないお姫様。
公式行事に参加のときは、必ずお父様お母様とご一緒だった。
それ以前の日本で暮らしてた雪は、海外旅行にガンガン行くようなタイプでもない地味目社畜ОLだったので、ひたすら会社と自宅を往復してた。旅行もいいなと思ってたけど、長期休みもとれなかったし、とれても急に一緒に行く人が……て。
存在感薄めの、誰にもどうでもいいような、ちっぽけな女の子だったけど、雪なりの幸福や不幸があって、もうちょっとだけ幸せになれないかなー? とか思ってた。
それがいまでは、サリアにいたら、何もしなくても生きてるだけでも邪魔になる王女で、同じような立場(立場はともかく、だいぶ何もかも違う気がするけど……)のフェリス様のもとへ嫁ぐ。
ここは、王宮に居場所のない気持ちを抱えたまま、幼い頃からフェリス様がシュヴァリエの領民さんと一緒に大事に育くんでらっしゃる街。
不思議。
人生五年で結婚て、この世界の神様に、この娘放っといたら二度目の人生も結婚もしないまま、うっかり邪魔だなって、若くして暗殺とかされて死ぬのでは……? て憐れまれたのかしらん……。
でも、そういう意味では、今殺されても(ダメダメダメ。お父様とお母様の分も長生きするのよ!)、私、二度目の人生では超自慢できる顔も性格も素晴らしい推しを得たし、婚約者も出来たわ!
(推しと婚約者様は同一人物だけど……)。
レティシアに婚約者ができたのは、叔父から既に決定事項として伝えられたので、レティシアの自由意志じゃないけど、それでも少しはいろいろ頑張ってるわ! て言えるかも?
「フェリス様」
「何、レティシア?」
「あれは何でしょう?」
「いちごの飴だね。いちごに飴を絡ませてるというか……」
「可愛い飴がたくさん……!!」
いちご以外にも、果物にいろいろ飴で加工している。
そして、日本の縁日でもよく見た飴細工。
ちょっと違うのは、ディアナや、ここシュヴァリエの御土地柄、薔薇や竜の飴細工が多い……。
「竜王陛下の飴細工……!!」
普通に可愛くて繊細な飴細工の竜なんだけど、そりゃあ竜王陛下の飴て書くと売れちゃうよね、きっと。
「フェリス様、レティシア姫、ご結婚おめでとうございます! フェリス様と花嫁様にうちの飴を贈らせて下さい!」
「ありがとう、ヨシュア。祭りの人出はどう?」
「フェリス様のご結婚のおかげもあって、上々ですよ!」
お祭り騒ぎの街を歩き出す前に、何でもたくさんもらってあげてね? 僕の花嫁のレティシアに献上した、て後で商品の売り文句にできるから、とフェリスからレクチャーを受けている。
そして、レティシアは、フェリスが、街のいろんな人の名前をよく覚えてることにも感心している。
「レティシア姫、何がお好きですか?」
「いちごの飴を下さい」
「こちらも、こちらも人気ですよ」
レティシアが遠慮がちにひとつだけリクエストしたら、ふっくらした御主人のヨシュアが、薔薇の細工の飴も、竜王陛下の飴も持たせてくれた。
「フェリス様も、苺の飴、食べましょう?」
「ああ、うん、じゃあ、僕も」
フェリス様にも苺の飴を食べさせて、レティシアは御機嫌である。
可愛い苺と、可愛い(?)フェリス様! 大好きと可愛いの二乗!
フェリス自身は、苺は美味しいけど、加工品より生がいい、しかし菓子屋にそれは言えぬ、とレティシアの小さな手から差し出されるままに、黙って苺の飴を食んでいた。
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