第239話 王弟殿下は引き籠り

「フェリス様、大人気でしたね」


「レティシアもね」


フェリスとレティシアは微笑しあう。


本当はあの子たちは、領主様と婚約者様がいらっしゃるから、子供たちに薔薇を持たせて歓迎の挨拶を、と大人達が予定して待たせていたのだが、いつのまにか、ねー、見えない、フェリス様見えない、婚約者様も見えないよ、待つの飽きたよ、早く会いたいね、てみんなで団子になってるうちに、前へ前へとやって来て、レティシアたちのもとまで辿り着いてしまったのだそうだ。


御祝い事の二人の為に用意されていた薔薇は、ちゃんと頂いた。薔薇の御礼に、フェリスとレティシアで摘んだいちごを子供たちに差し上げた。数が足りてるといいけど……。


「本当はね、レティシアが僕の所へお嫁に来るから、レティシアにもお祭りに出て貰う? て希望もあったんだけど」


小さな可愛い女の子が、レティシアの金髪に飾ってくれた淡いピンクの薔薇が、ちょっと曲がっているのをフェリスがなおしてくれる。


「わたし?」


きょとん、と、とレティシアはフェリスを見上げる。


「うん。でも、レティシア、小さい身でお嫁に来て疲れ果てて、お祭りどころじゃないかも知れないし、来年くらいに落ち着いてからがいいかな、て話してたんだよね」


「フェリス様はいつもお出になってるのですか?」


「うん。公式に出てる日と、いまみたいに、時間があいたから様子見に寄ってるときと」


「……王弟殿下は引き籠りとお聞きしてましたが、とってもお外にお忍び好きの引き籠りさんなのですね……」


レティシアは微笑ってフェリスを見上げた。


「うーん。それについては、ちっとも引き籠れてない。義母上の機嫌を悪くせぬよう、夜会を逃れようと思って、引き籠りになりたかったんだけど、出ない訳にはいかないものがやっぱり結構あって……」


「引き籠り、希望、だったのですか……」


「うん。でも改める」


「………?」


「いままではさして気にしてなかったんだけど、これからは、レティシアが嫌な思いをせぬように、評判には気をつけるようにする」


「……わたし?」


どうしてフェリス様は、そんなにレティシアの為にいろいろしてくれるんだろう? いい人過ぎでは? もしやフェリス様、十七歳にして、子持ちのパパにでもなった気分なんだろうか。確かにさっきもわりと子煩悩だったけど。


「フェリス様、私のために無理したりしないで下さいね。私、とってもとっても、フェリス様のおかげで幸せなので! どうかご無理なさらず!!」


「ううん? 無理はしてない」


「大丈夫ですよ。レティシア様。フェリス様は、いままでが、構わなすぎただけです。レティシア様がいらしたので、人並みにお食事を食べて、人並みに外聞にも気を使おうという……とっても人間らしくおなりになっただけで……レイは、感謝に堪えません、レティシア様、一生お仕えします……ずっといて下さいね!!」


「どういう感謝の仕方してるんだ、レイ」

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