第238話 ちびっこ、来襲

白馬から抱っこでフェリス様に降ろして貰って、レティシアは大地を踏みしめる。


ここがフェリス様の土地!


何気に、ディアナに来てから、フェリス様がよくお外に連れてって下さるから、

レティシアの華奢な靴が、庭以外の土を踏める!


両親がいて幸福だったときも、両親を失って余計なものとなってからも、どちらも、

サリアでは王宮の庭以外の土を踏むことはそうそうなかった。


「フェリス様、領民の方と親しいのですね」


「民は何が望みだろう、どんなことをしてあげたら暮らしやすいだろう? て僕が部屋で悩んでたら、そんなの民に聞かんとわからんだろう? てレーヴェ……じゃない、親戚の年長者が……」


フェリス様が面映ゆそうな顔をしている。

そうかー。どなたか、社交的な御親戚に、民との対話など奨められたのかな?


「……? 竜王陛下が仰りそうですね!」


『竜王陛下の御言葉集』もフェリス様のお奨め本で、図書室で借りたの! 

うふふふ。読むの超楽しみ! 


たくさん楽しそうな本をお借りしたので(初期の目的の嫁姑対策本の枠を飛び出し……)、レティシアはとっても強化された! 


これでフェリス様が忙しくても、レティシア一人のお部屋での生活も超快適ー!


「……おねーちゃ…、フェリス様のお嫁さん?」


「え……」


生の薔薇を髪に飾った幼い娘が、興味津々の大きな瞳で、レティシアを見上げている。


「う、うん? そうだよ」


ちったい!  可愛いー!!!

レティシアも小さいのだが、小さきものの可愛さよ!

妖精のよう!


「フェリス様のお嫁さま、リナもなりたーい!」


「エマもー!」


「マリアもフェリス様のお嫁様なるー」


「ジークもなるー」


おお。性別の壁を越え、フェリス様のちっさいお嫁様候補がたくさん!!


「そんなにたくさんお嫁さんにしたら、僕は重婚の罪で、竜王陛下にも国王陛下にも、みんなのお父さんお母さんにも怒られてしまうよ」


フェリス様が微笑いながら、子供たちをあやしている。

フェリス様、そんな(子守り)機能もあったんですね! いろいろ意外です!!


「えーダメー」


「フェリス様怒られるの、やー」


「お嫁さんて、一人しかダメなのー?」


なかなかの美幼児であるジーク君が不思議がっている。


「そうだよ。ジークも大きくなったら、たった一人の人を見つけるんだよ。そうしたら、僕達が祝福するからね」


よいしょ、とぐずるジークをフェリス様が抱き上げると、女の子たちが、ズルいジーク、ズルい、フェリス様の抱っこ!! と非難を浴びている。


「しゅくふくー?」


「そう。薔薇の姫のレティシアと僕が、いつかジークやマリアやリナの結婚を祝福するよ。まだだいぶ先だけどね」


「お姉ちゃんはもうフェリス様のお嫁さんになるのにー?」


「うーん。それはちょっといろいろ国の事情が……」


実は超絶綺麗な顔より何よりも、こういうとこが好きかも知れない、フェリス様。


子供相手でも、誰相手でも、真面目に話ししちゃうとこ。


君にはそれはわからない、とは言わない、優しい天然な私の王子様。


「わたし、事情があって、だいぶ急いでお嫁に来ちゃったけど、フェリス様とみんなの国に来れて、とっても、とっても幸せ、だよ」


マリアという女の子の金髪を、レティシアは撫でた。


栄養のいきわたった健康な肌、茶色の髪。


レティシアの婚礼の馬車を遠く見つめていたサリアの街の貧しい路地の子供と比べるべくもない。


「あ、マリア、ずるい! リナも! レティシア様のなでなで! なでなで!」


「サーシャも。ばらのひめ。なでなで、しゅる」


サリアの王であるレティシアの叔父は、絶対にこんな風に市井に降りたりしない。


誰が飢えていて、何に困っているのかを、知ろうとしない。


でも、そういう貴族のほうがむしろあたりまえで……。


「こら、おまえたち、いつのまに! フェリス様とレティシア様を困らせるんじゃなーい!」


「困らせてないもん」


「うん。仲良し」


「仲良し。レティシアさま、可愛い! しゅき!」


「うん! ばらのひめ、レティシアさま、しゅきー!」


ちっちゃい子、こんなにいっぱい久々に見た!

すっごく可愛いし、レティシアの小さい身体も、何だか嬉しそう。


ディアナに来てからずっと幸せだけど、やっぱり、年長の人だらけのなかで、ちょっと緊張はしてるんだよね……この身体も。

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