第227話 王弟殿下の婚姻とディアナの騎士たち
「フェリス様がいないと、王宮に目の保養がないよ~」
「おまえ……そんな恐れ多い……」
「何だよ~みんな言わないだけで、絶対そう思ってるじゃないか~」
剣の手入れをしながら、歳若いディアナの騎士がぼやいている。
「でも、昨夜のリリア僧の逮捕にも、王弟殿下はこっそり関わってらっしゃるんだろう? 王弟殿下に御救い頂いた! て助けられた者たちが鼻高々だって言うじゃないか。フェリス様、ちっとも休みになってない気が……」
「そんな~フェリス様、なんで、そんなおもしろそうな捕り物、呼んで下さらないんだろう……一言お声かけて下されば馳せ参じるのにぃ」
「いらんだろう、おまえの手……、王弟殿下のほうが間違いなく強いし……。てか、御婚礼御仕度中なのに、捕り物なんぞしててはダメなのでは、殿下……」
「フェリス様の婚約者は、あれだろう? サリアから来た王女様だろう? 御婚約者が小さすぎて、王弟殿下、お困りなのでは……御気の毒に」
「でも、オレ、昨日、御二人が回廊歩いてるところをお見かけしたけど、声立てて笑ってたぞ、フェリス殿下」
「え? フェリス様が? それは珍しい」
「あ、オレもそれ見た! すんごい可愛いお姫様だよな! フェリス様と兄妹みたいだった! 先日ご到着したばかりだろうに、あんなに御二人の雰囲気が似てるってことは、気もあうんだろうな」
「うちの姉、フェリス様を影ながらお慕いする会の有志だけど、フェリス様はどうやらサリアの姫君をいたくお気に召した御様子、であれば、信者としては、姫も熱くお支えせねば、て何だか燃えてたぞ……」
「そこは姫に意地悪するんじゃなくて支えちゃうの? おまえの姉、おもしろいな?」
「うん。真の愛好家たる者、我らの王子の愛する者を我らも愛す、んだって」
レティシアが聞いてたら、ぜひとも御姉様とフェリス様についての御茶会を……、と目を輝かしそうな話である。
「あー。それはでも、そうかも。昨日、フェリス様が楽しそうにレティシア殿下連れて歩いてらしたから、フェリス殿下が、王太后様に押し付けられた異国の姫君を大切に愛でられる御心なら、そのようにこちらも対応しよう、て向きがたくさんあるよな~」
「竜王剣を陛下が抜けないなんて噂は、外国のリリアの僧たちが流してたってんなら、早く王太后様、損ねた御機嫌なおしてほしい~、フェリス様が気使って王宮から姿消してると、王宮の花たちもしょんぼりしてるよ」
「そもそも竜王剣て使えるの? オレ、あの剣、宝玉多すぎて、立派過ぎるから、鑑賞用だと思ってた……だって絶対重いよ」
観賞用の剣というのも、あるにはある。
それはそれで仕事をしている。
絵巻物に出てくるような剣は、どうにも実際の戦闘に使うには、不便なので。
「竜王陛下が持つ分にはいけるんだろうけど、普通の人間にあれはなあ……」
竜王陛下はフェリス王弟殿下と同じく見た目は優男だが、体力も握力も、人間とは比べるべくもないので。
「うーん。竜王陛下の血に呼応するんじゃないのか? どっちにしろ、ディアナの神剣のことを、リリアの僧にどうこう言われる覚えはないよなあ」
「ホントだよ! おかげで、フェリス様がとばっちりで謹慎食らったじゃねーか! 噂撒いた奴、極刑にして欲しい、陛下の為にもフェリス様の為にも、オレの為にも!」
「おまえはただ、優しいフェリス様に仕事手伝って貰えなくて、切れてるだけだろ……。まあもう少しで、フェリス様の結婚式だから、華やかに御戻りになるよ」
「楽しみだな~、オレの警備担当区域、よく見えるといいな~」
「フェリス様が謹慎!? て話に、ディアナ中の商人たちが、まさか、結婚式のお日にちがずれたりは……!! て蒼ざめてたからな。王太后様も罪作りだよ」
「うーん。王太后様、自分で決めといて、フェリス様の結婚、嫌なんじゃないの? いつもフェリス様に関しての王太后様、複雑怪奇だから……」
「確かに。王太后様が薦めといて、嫌なのか? てとこはあるよな。まあ、何をどう言っても、もう可愛い姫様もいらして、フェリス様とも仲良くなってるんだし、結婚式はすぐ来るさ。来ないと、ディアナ中の花屋が発狂するよ」
「確かに! フェリス様の結婚祝いで稼ぐ気満々の、洋服屋も、菓子屋も、飲み屋もな!」
ディアナにとって王弟殿下の婚姻は、楽しみで仕方ないお祭りのひとつである。
(フェリス本人が祭り好きな性格かどうかとは、全く無関係の話である)
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