第228話 オレの娘と、同担拒否
「敬愛する竜王陛下といえど、我が婚約者を泣かせた罪は、万死に値すると思います」
少し外に出かけよう、何か気に入ったドレスに着替えておいで、とレティシアには天使の微笑みで別れておいて、フェリスは不機嫌を絵にかいたような顔で、レーヴェを見上げていた。
「いやいやいや、待て待て待て待て。オレはレティシアを苛めた訳じゃないぞ。
私を娘と思って下さいますか? てレティシアに聞かれたから、もちろん、レティシアはオレの可愛い娘だよ、て言っただけでな……おまえ、レティシアに猫被ってる分、裏で狂暴になってないか?」
「そんなことはありません。レーヴェの手の早さに呆れてるだけです」
「オレ、べつに手は早くないぞ。どちらかというと、気の長い方……てか、フェリスの婚約者になった時点で、既に、レティシアはオレの娘じゃないか?」
「レーヴェは僕の父上じゃないでしょ」
「何を言うか。オレはディアナと、オレを信じるの全ての子らの父。ましてや、レティシアは、オレの末裔、オレが手塩にかけて育てたこの可愛いフェリスの嫁! これはもう、どう考えても、オレの娘!」
「有難い神様なのか、滅茶苦茶言う我儘竜なのか、どっちなんです?」
「どっちもだな。年中ありがたい神様やれるほど、出来た男ではないからな」
大口をあけて、レーヴェは笑う。レティシアを泣かすなと怒ろうと思ってたのに、ディアナの竜王陛下は相変わらずの気楽さである。
「レティシアは、親を亡くしたばかりなんだから、父親の声に弱いわなあ……」
「でも、レティシアのお父様ですから、レーヴェと違って、真面目で堅実な方だったのでは……?」
「何が言いたいんだ、おまえは? だいたい。おまえこそ、同い年の姿に変化までして、レティシアの関心引こうとは。孤高の美貌と歌われたフェリス王弟殿下の涙ぐましい努力よ……」
「べ、べつに、無理に気を引こうと思ったわけでは……、レティシアが同い年の僕に逢いたいと言ってたので……少しは……喜んでくれるかなと」
レーヴェにからかわれて、ぱあっ、とフェリスの白い頬が赤くなった。
「めっちゃ喜んでて可愛いかったなレティシア。……ところで、フェリスよ、レティシアがよく言ってる推しとはなんだ?」
「推し、とは、大好きな人のことだそうです」
「相愛の相手のことか?」
「いえ。片思いでもいいんだそうです。最初に僕が聞いた限りでは、人々がレーヴェを思うような思いかと……」
「信仰のようなものか? レティシアはフェリスの妃になるのに、フェリスを信仰するのか?」
「はい。そして、レティシアは推し友が欲しいそうです」
「……何じゃそりゃ?」
「推し友とは、同じ推しを崇拝してる者だそうです。レティシアは、同じ推しを推してる方々と語らいたいんだそうです」
「ううん? 何を言っとるのか、さっぱりわからんな? 婚約者を好きな他の奴になんて、ちっとも逢いたくないだろう」
「僕もそう思います。そう言ったら、それは同担拒否という、心の狭い行いだとレティシアに諭されました」
「うーん。………おまえの婚約者、そうとう面白いな?」
「はい。見てると、飽きません」
今頃、レティシアは、可愛い外出用のドレスを選びながら、くしゃみをしているかも知れない。
でも、レティシアの謎発言も、謎行動も。
何もかもぜんぶ愛しい。
基本、謎めいていても、意味不明でも、フェリスへの悪意はどこにもないことだけはわかる。
「あ、なあ、そうすると、オレとフェリスは、レティシア推しで同担か?」
「ですから、僕は同担拒否です。謹んで、レーヴェとの同担は、お断りします。レティシアは僕のレティシアです」
「心が狭いぞ、フェリスよ」
レーヴェがお腹を抱えて、空中で笑っている。
「存じております。この件に関して、広げる予定は全くありません」
傍迷惑なほどの強火レティシア担当としての道を、順調にきわめている王弟殿下である。
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