第191話 街を歩く者達
「お客さんたちは魔導士かい? うちの王弟殿下の結婚式に来たのかい? 」
宿屋兼お食事処のカルロの主人に尋ねられて、黒い魔導士のフードを目深に被ったフェリスとレティシアは返事に困る。
いつのまにうちの王弟殿下に……?
しかも、レーヴェ様の神殿で愛を誓う両人ですので、参列は難しいです。
「いや、だれかの結婚式があるのかい?」
一人、魔導士の装いではなく、顔も出ているレイが初めて聞いたといいたげに問い返す。
「そうだよ。もうすぐ、ディアナ自慢の美貌の王弟殿下の結婚式があるから、仕事探しや物見遊山のお客さんが多いんだ。いろんな催しが多いし、お客さんたちも、なかなか風采がいいから、警護の仕事ぐらいなら、すぐ見つかると思うよ」
「たいした剣の腕じゃなくてもいけるかな?」
レイがなんだか陽気な流浪の剣士風に婀娜っぽく笑ってる。普段あんないつも穏やかな人なのに。役者だわ。
「そこそこ背丈がありゃ、見栄えで、立ってりゃいいだけの仕事もたんとあるはずだよ。……そこのお客さんなんて若いのに大魔道士の風格あるよ。なあ、お付きの子、林檎のジュース飲むかい?」
「ありがとう、この子は沈黙の行をしているので、声が出せなくてすまない」
すっぽり黒いフードに覆われたレティシアは、林檎のジュースをもらって、ぺこりとお礼をする。
結局、同行を望むレティシアにフェリスが負けて、転移魔法で連れてきてもらった。
ちょっとでも何かあれば、レティシアはすぐお部屋に転送するから、と言われているので、レティシアはとてもとてもとても大人しくしている。
「偉いねえ、ちっちゃいのに。王弟殿下の花嫁様もその子くらいなのに、一人でお嫁に来たらしいよ。そんで来るなり、うちの王太后様に意地悪されて、王弟殿下の為に、怒りたくったらしいよ! それを聞いて、俺はもう、見る前から、その威勢のいい、サリアのちいさい姫さんを気に入っちゃったね! 結婚式の日はうちでも祝いのケーキ出すよ! あんたらも暇ならおいでね!」
えええええ!
まだ見ぬレティシアを 気に入ってくれてありがとうだけど、なんでおじさん、そんなの知ってるのー!
いやーん!!
「……………!!」
「ちょ、笑いすぎですよ、フェ……、フェザーン」
フェリス様の笑い上戸がこんなとこでまで発動を……。 レイが名前をかえて咎めてる。
「そんなの何処から聞くんだい、親父さん?」
「ん? そりゃ王宮出入りの商人もいるからねぇ。何でも筒抜けだよ。イケメンのフェリス様が優しいからって、陛下のかーちゃん意地悪しすぎなんだよ」
「陛下の……か」
おじさん、笑いのツボに嵌まってるフェリス様が笑いすぎてお腹苦しくなっちゃうわ。
「俺なら義理でも、あんな竜王陛下似の息子が、あんなにかしづいてくれたら、可愛がっちまうけどなあ。女心は難しいよなあ。だからって、無実の王弟殿下を謹慎はねーよなあ」
せ、せっかく陛下が一日で解除しても、それはやっぱバレちゃってるんですか……。
「王弟殿下がよくないことでもしたのでは?」
もー、フェリス様、何で自分を悪者にするの?
額に、お人好しすぎ!て書いて貼り付けますよ!
「ねーよ! だいたいが王太后を怒らせた、竜王剣の噂て、何だよ? 3度の飯よりディアナの噂話が好きなオレらが知らねー噂なんてあるかよ? そもそも誰かが、ありもしねー噂の話で、うちの気のいい陛下と王弟殿下を嵌めたんじゃねーか?」
「もともと、竜王剣の噂などない……?」
レティシアとフェリスとレイは、憤慨するカルロの主人の顔を見た後、3人で目をみかわした。
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