第190話 姫君つきの女官について
「御二人が御戻りにならないと、寂しいですねぇ。レティシア様、どうしてらっしゃるでしょう?」
リタはレティシアのドレスのチェックをしながら、しょんぼり呟いた。
「私共もお供したいですねぇ。レイ、ずるいですよねぇ」
「仕方ありません。あちらの御邸の女官方も、きっと、レティシア様の世話をしたいだろうから、というフェリス様の配慮です。我儘を言ってはなりません」
「それはわかっておりますけど、もしかしたら長く向こうにいらっしゃるかも知れないと思うと、まるでこちらの御邸の灯りが消えてしまったようで……」
「失敬な。御邸の灯りは万事滞りなくついておりますよ」
「比喩でございます、サキ様。サキ様だって寂しいお貌なさってるじゃありませんか」
「それはまあ……、御二人ともいらっしゃらないとなると、皆、寂しくて当然です」
「はあ。竜王陛下もお寂しいですよね。いつもここで何か可愛くお祈りしてらっしゃいますものね、レティシア様。早く私共のほうにレティシア様とフェリス様お返しくださいね。……パタパタパタ! て可愛いレティシア様の足音がしないと、私、なんだか仕事のやる気が起きません」
いや、オレはわりと大丈夫、オレ、ディアナの何処にでもいるからね、と同情された竜王陛下はレティシアのお気に入りのタペストリーの中で苦笑気味だ。
「もし、レティシア様がよほどお寂しいようなら、私共を呼び寄せるとのことでしたが……」
「本当ですか!?」
「これ。優しいレティシア様はきっと向こうの女官とも仲良くなさいますから、そんな悪い期待をしてはいけません」
「そうですねぇ。それじゃまるで、レティシア様と向こうの女官とうまくいかなきゃいいって呪ってるみたいですもんね。……そんな悪ではないんですよ! ちょっと私めが、レティシア様と毎日お会いしたいだけなんです! 毎日、私が丹精込めてお手入れしてるレティシア様の髪を、他の誰かがちゃんとしてくれるのかしら……! とちょっと妬いてるだけです」
「リタ、レティシア様がいらっしゃるまで、そんな小さいお嫁様、大丈夫なんでしょうか……、フェリス様とうまくいかなくて、泣いて帰っちゃったりしないでしょうか、て危ぶんでたじゃないの」
「だって、あんなに可愛い方がいらっしゃるとも、あんなにフェリス様が幸せそうに一緒に食事なさるようになるとも、宮中の誰一人予想してなかったじゃないですか」
「まことにね、何事も、実際に、いらしてみないとわからないものよね」
サキは子供の頃からフェリスを見てるのだが、何なら、青天の霹靂と言っていい。
毎日、フェリスが、レティシアと話すたびに、声を立てて笑い転げているのだ。
よき方をフェリス様にお奨め下さって……と、王太后にサキが感謝する日が来ようとはと感無量である。
「私共はレティシア様がお帰りになるまで、ディアナの令嬢方の流行のものなどお勉強致しましょう」
「そうですね! 私、お散歩しまくって、御令嬢方の流行りの髪の結い方や、ドレスなどを、目を皿のようにして、研究いたしますわ! うちの大切なレティシア様に、流行遅れの悔しさなど、決して味あわせませんとも!」
「そ、そうね、頑張ってちょうだい……」
方向性がレティシア本人の意にそってるかどうは謎だが、仕事にやる気がでるのはいいことだ。
それにレティシアはフェリスと似て、自分の事は後回し的なところがあるので、周囲の者が目を配るのはいいことかも知れない。
サキもまた早く二人に帰ってきてもらって、レティシアから「ねぇサキ、お夜食のメニューは何がいいと思う? フェリス様は、何が好きかしら? 何ならたくさん食べたくなるかしら? 夜だから、あまり重くないもので……」という可愛らしい優しい声を聞きたいものだ。
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