第184話 竜王陛下の愛しい娘(本人知らず)
「………!!」
レティシアは王宮仕事を終えておうちに帰ったら、
(竜王陛下ー、フェリス様とレティシア、二人で王宮で頑張ってきましたよー!)
とお話を竜王陛下に聞いて貰うんだ~! と心に決めていた。
しかし、いま、大事なことに気が付いたのだが、ここはいつものおうちではなかった。こちらの邸宅には、レティシアのお気に入りの竜王陛下のタペストリーがない。
「ううう。私の竜王陛下が……」
レーヴェが聞いたら、
さすがオレの愛しい娘、やはりフェリスじゃなくてオレに聞いて欲しい話があるよなあ、と悦に入り、フェリスが聞いたら、ショックで眩暈を起こしそうだ。
「レティシア姫。いかがなさいました」
「レティシア様、何かお探しですか?」
沈むレティシア姫を、この家に仕える者達が案じる。
「あ、いえ。あの。何処かに、竜王陛下の絵があったらいいなと……」
目の届く範囲にレーヴェの姿がないと、落ち着かないあたり、レティシアもすっかりディアナの娘の風格である。
「まあ。レーヴェ様でしたら、レティシア様のお部屋にもいらっしゃいますよ」
「本当ですか!」
やったー!
お部屋にいらっしゃるなら、安心ー!!
やっぱりなんだかフェリス様のおうちには、竜王陛下がいてくれないと落ち着かないの……。
フェリス様お忙しいのか、なかなか本宅のレティシアのお部屋に竜王陛下の絵を飾って下さらないんだけど、やはり年季の入った竜王陛下担当のフェリス様的には、新参のレティシアにはまだ早いのかしらん……? レティシア、いわゆる『にわか(*推し活においては、突然ファンになった者。新参のファンを意味する)』だものね。いいんだけどね、タペストリーあるし。竜王陛下、フェリス様の次の二推しだし……。
宗教と推し活がだいぶ曖昧になっているレティシアではあるが、無邪気にレーヴェを慕っていることに関しては、竜神レーヴェの自惚れではなく事実である。
「レティシア様は竜王陛下をお好きなのですか?」
異国から輿入れしてきた姫が、ディアナの守護神の姿を探し求めてくれる様子は、ディアナ人としてはやはり嬉しい。
「はい。こちらに参りましてから、フェリス様とそっくりな竜王陛下がとても慕わしく……、あ、いえ、救国の英雄、ディアナの守護神、ディアナを守り続ける竜の神、……その竜の血を継ぐ王家に嫁げる幸福を竜王陛下に感謝しております」
いけない。
フェリス様とそっくりだから竜王陛下大ー好き! とか言いかけちゃった……。
(でも、よく考えると、レティシア、ちっちゃいから、それでも許される!?)
「きっと竜王陛下、フェリス様の花嫁のレティシア様からそんなに慕って頂けて、とても喜んでおられますよ。竜王陛下は恋の神様でもあり、子供好きで、子供たちの守り神とも言われる神様です」
「そうなのですか。恋の神様は成程ですが、こんなに華麗な御顔で子供好きって、竜王陛下、何だか可愛らしいですね」
「…………」
きゃー!
もしや、レティシア、また変な事言っちゃったのでは!?
最近ずーっとフェリス様とお話してて、フェリス様は、レティシアが何言っても不思議がらないし怒らないから、会話のガードが緩くなっちゃってて……。
「何やら……、レティシア様のお話になる様子は、フェリス様の幼い頃を思い出させますねぇ。昔からフェリス様もとても少年とは思えぬような大人びた会話をなさる御方でした。きっと、竜王陛下は、御自分に似たフェリス様にぴったりの特別な花嫁を選んで下さったのですね」
そうかなあ。それは怪しいと思うけど。
竜王陛下が選ぶなら、もっとちゃんとした王女様なり御令嬢を選んでたかも?
少なくとも、中身は一般の日本人娘の転生(特に付加魔力や付加加護なし)、本体は両親を失って後ろ盾なしの王女ではなかったのでは……?
でもフェリス様が天才少年だったおかげで、フェリス様のおうちでは、幼ない娘が大人びたことを言っても気味悪がられないのは、本当に助かるの……フェリス様、ありがとう、大好き!!
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