第183話 竜は何に憑くか、について


「それにしても、謹慎解けてよかったな、フェリス。マリウス兄ちゃん頑張ったな」


「兄上には、感謝に堪えません。……ただ、陛下がフェリス様を大切にして下さってる、と無邪気に喜んでくれたレティシアには言いにくかったのですが、兄上の顔色が優れぬように思いました。やはり、僕の為に、義母上の意に反したことで、優しい兄上は御心を痛めておいでなのではと……。大人しく僕が謹慎しておいたほうがよかったのでは……」


「うーん。でもそうすると、フェリスがやってもいないのに、竜王剣の噂を撒いたみたいになっちゃうだろ。……それに、マリウスが沈んでるのは、フェリスのせいじゃないから」


いつもご機嫌なレーヴェらしくもなく、微妙な顔をしている。


「レーヴェ。物凄く基本的なことを聞いてもいいですか?」


「うん。何だ?」


「義母上はどうして僕が王位を狙うとあんなに思い込んでらっしゃるんでしょう? 僕が王位を奪って、早世した母の恨みを晴らすとでも? 生きてても死んでても、我が母はあまり王位を欲しがるタイプではないのですが……」


 そんなことを言ったら怒られるかも知れないが、こんなにずっと恨まれてるのに、フェリスは、なんで義母上があんなにフェリスの謀叛を恐れているのか、正直わからない。


 いまも昔もフェリスは謀叛を企んだことはないし、義母上が神経質になってるからと、極力、有力な貴族などと懇意にならぬように努めてるつもりなのだが。


「うーん。そこがなあ……、マグダレーナは、フェリスがオレに似てるって腹立ててるけど、竜族の気性を全然把握してないからな。マグダレーナなりにはオレを愛してるけど、マグダレーナの夢見る竜王陛下だからな。……オレたちは、基本、国家や権力に憑く訳じゃないからなあ。愛する者が望めば、国も興すし、守護もするけど、権力自体に興味があるタイプじゃないんだよな。……フェリスだって、レティシアが何処かに新しい平和な国が欲しい、て言ったら、レティシアが望むなら国を興すか、て性質だろう?」


「はい。レティシアがそれを望むなら、可能です。僕が自分の為に、兄上が平和に治めてる国を乗っ取ろうとかいうのは、何故そんなことを、とちょっと理解できないのですが……」


淡々と、フェリスは応える。


国家建設にしろ、王位簒奪にしろ、やろうと思ったことがないだけで、能力として、やれるかやれないかと言えば、恐らく、やれるとは思う。


(こんな性格だから、義母上に疑われ続けるのかも知れない……)


「マグダレーナは、ステファンと不具合が生じてから、ディアナの王冠に命かけてるから、王の血を引く者はみんな王冠が好きだろう、て思っちゃうんだろうなあ……。やっぱりあのとき、オレが雷でも落としてやればよかったのか? でもオレがそこに干渉するのもなあ……」


「雷? がどうしたのですか?」


いつも呑気な竜神様とはいえ、レーヴェに雷落とされたら死ぬのでは?


「何でもない。人間、歳食うほどに、人の言う事聞けなくなるから、それはよくないやり方じゃないか? て諭すなら、若いときがよかったよなあって話」


その言葉を聞いてるフェリスに、レーヴェの物憂げな表情の意味は計れなかったのだけれど。

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