第173話 邪気払いについて


「レーヴェが悪い?」


「いえ。悪くはないですけど、無理です。もしかしたら、竜王陛下は神様ですからできるかもですけど、フェリス様は人間なんだから、そんな無理、だめ、絶対! 意地悪な人に甘えてたら、もっと意地悪されそうです!」


「僕は人間だから? レーヴェみたいに無敵でなくても、レティシアは幻滅しない?」


「??? しません。竜王陛下は神です。普通の人間は、無敵ではないです。フェリス様は、いまでもじゅうぶん、神様みたいに優しい方だなと思ってますが……。お義母様に……言葉が届かなくても、それはフェリス様がうまく話せないんじゃなくて、お義母様が何か心にいろいろおありになって……、話の内容を拒んでらっしゃるからです……それは、フェリス様のせいじゃないです」


いっしょうけんめい、たくさん、話しても、届かないことはある。


たぶん、内容じゃないのだ。


話し方でも、きっと、なくて……。


「……レティシアは、こんなに、ちっちゃいのに」


ふわふわと、猫の仔のように、フェリス様に髪を撫でられる。


「僕の王女様は、レーヴェみたいなことを言う」


夢の中の? 竜王陛下?


「竜王陛下が? なんと?」


「フェリスは悪くない。それは、おまえのせいじゃないって」


さすが、竜王陛下!


夢の中でもイケメンです!(性格が)


「そうですよ。嫌われる人には何しても嫌われるのです。話せばわかる、なんて、あの諺ことわざは嘘です」


「コト、ワザ……?」


「あ、なんでも……、フェリス様!?」


レティシアは、フェリスの膝の上に乗せられる。


「ちょっと疲れたから、レティシア、少しだけ、こうしてて。邪気払っていい?」


「じ、邪気!? ……これ、私の体重分、重くなって、余計疲れませんか?」


「ううん? 昨夜も思ったんだけど、レティシアに触れてると、こう何か、暗く淀みかけるものが、浄化されるかんじだから……」


あ。でも、それは、そうなのかも? 


何かね、うまく言えないけど、フェリス様の気配が悪くなるんだよね、王太后様のとこ行くと……。


それで、さっきから、無駄にぺたぺたフェリス様に触ってたんだけど……。


「今日、王太后様、フェリス様が私のこと話してらっしゃるとき、とてもお嫌そうでした。……もしかして、フェリス様の御心が、お義母様から遠ざかっていくのがお嫌なのかも?」


「まさか。僕がレティシアと気があいそうなのが不愉快とかだと思うよ。……ずっと嫌いだった、出来の悪い玩具でも、他人が楽しそうに遊んでたら、嫌なのかも知れないけどね。……ああダメだ。性格が悪くなってる……。レティシア、教育によくないと思うから、僕、ちょっと黙るね」


「はい」


レティシアを膝に乗せて、抱っこしたまま、フェリスは瞼を閉じてしまった。

自粛中、兼、浄化中、らしい。


「……フェリス様。偉かったです」


なでなで、とフェリス様の髪を撫でながら、レティシアはお耳に囁いてみる。


「そんなに僕を甘やかしたら……」


瞼を閉じたまま、フェリス様が微笑ってる。


うん。

レティシアの浄化(そんなのあるのか…我ながら、胡散くさい……)効いてるかも?


さっきより、フェリス様の気配、柔らかくなってる。


「レティシアを、何処にも帰したくなくなるよ」


 帰るところは何処にもないから、フェリス様のおうちにはおいて欲しいんだけど、御膝抱っこは、レイの居る前では、ちょっとかなり恥ずかしい! とレティシアは密かに困っていた(でもフェリス様、弱ってたので、されるがままになっていた)

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