第172話 夢の中の竜王陛下と甘え方について

「お疲れさまでした!!」


帰りの馬車の中で、ぱふっとレティシアはフェリス様に抱き着く。


ちょっと最近、フェリス様とスキンシップ過多なせいか、こんなことも自然に!!

というか、レティシアのパワーがフェリス様に移りますように!


雪なら五歳当時でも、おうちの人以外にこれはちょっと無理だな。

(あ、でも、フェリス様、レティシアのおうちの人だ……)


「レティシアこそ。お疲れ様。ありがとう、諸々、そんな楽しくない謁見につきあってくれて」


「そんなことないです! 楽しかったです! 密かにオタ友さん発見してオタ充もしました!」


陛下は、フェリス様推し仲間の大事な大手おおてさんだわ……。

大手おおてパワー(この場合、影響力、発言力のある人を指す)で、フェリス様を守ってくださいね!


「おた、とも……? おた、じゅう……?」


フェリス様が、聞きなれない言葉に、美しく小首を傾げている。可愛いー!!


「何でもないです! 陛下にお逢い出来て、陛下やルーファス王太子様が、フェリス様心配してくれてて、とっても嬉しかったです」


ほらね。

王太后様のところへお伺いしてから、それこそ本当に雪みたいに白い、と思ってたフェリス様の頬に、こうしてレティシアが触ると、少し赤みがさす。まるで、冷たい陶器で作った美しい人形が、人間に戻るみたいに。なので、ちょっと、フェリス様に、ぺたぺた触っちゃうの。


白い雪に足跡をつける、小さな子供みたいに。


「……御二人で歩く道々、たくさん人にお会いしましたし、今日のことが伝わるでしょうから、レティシア様に贈り物がたくさん届くと思いますよ」


にこにことレイが言っている。


「私に? どうして?」


「フェリス様がレティシア様を凄くお気に入りで連れ歩いてる、て話が回るでしょうから……。御二人の御年齢の乖離(かいり)ですとか、フェリス様のふだんの御振舞だとかで、いままで皆様、フェリス様はこの御結婚に本当に乗り気なのかどうか様子見、というところでしたから……」


「フェリス様がお気に入りの花嫁だと、御菓子とかたくさんやってきて、それほどだとこない……?」


それはどーなの、てかんじだけど、まあフェリス様とレティシアが仲が悪いと思われるより、嬉しいかな。


「王太后宮の女官たちも、今日は、レティシアがいてくれて、場が明るくなって、喜んでたと思うよ。僕と義母上二人だと、何ともだから……」


「王太后様……王太后様、一言は、フェリス、私が悪かった、があってもよかったと……」


むむむ、とレティシアの眉がちょっと怒り眉になってしまう。


「レティシア、変な顔に……」


「もともと変な顔なんですー」


「そんなことないよ。レティシアは、いつも可愛いよ。……義母上とはね、僕がもっとうまく話せたら……と、いつも思うんだけど」


「フェリス様、ちゃんと、お話されてました」


「うん。でも、おまえはいつも堅すぎなんだって、レーヴェが……」


「竜王陛下が? フェリス様、いつも、かたいって?」


??? 


言いそうだけど、タペストリーの竜王陛下。


なんていうか、フェリス様と同じお貌なんだけど、繊細そうではなく、大口あけて大笑いしそうな男っぽい方なんだよね。


「……!! う、うん、僕の夢の中で」


「竜王陛下の夢を見るフェリス様……」


だいぶ可愛いな!!


「そう。もっと、うまく甘えればいいんだよ、て夢で、レーヴェに言われたんだけど、僕には誰かに甘える才能が全然……」


「それは、夢の中の竜王陛下が、無理言いすぎです。フェリス様じゃなくても、意地悪ばっかりしてくる人には、甘えられないです」




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