第168話 王弟殿下は謎の文様を描く
「フェリス様?」
さっきのルーファス様もびっくりなくらい、フェリス様が真っ赤になっている。
???
どうしたのかしら?
「フェリス様、手元の署名が乱れていらっしゃいますが……」
「………!?」
ホントだ。フェリス様が手元で記入してらしたお名前のサインが謎の文様になってしまっている。大事な書類、レティシアがお話してたから、お手元を乱しちゃったかも……?
「……謹慎の次は、公文書偽造の罪に問われそうだ」
うーん、と書き損じた書類を見下ろしたフェリス様は、その紙に何か囁いた。
程なく、インクがまるでそれ自体、意志のあるもののように浮き上がって来た。
さっきの謎の文様は消えて、浮き上がったインクが、空中で綺麗にフェリス様の署名を象って、書類の署名の位置に戻っていく。
………!?
これができるなら、フェリス様、何も一通ずつ、自分でサインする必要ないのでは!?
あ。でも、反省してるみたい? この魔法、あまり、使っちゃダメなのかな……。
「フェリス様、ごめんなさい、私がお話してたから……」
「いや、慣れないことを言って貰って、思考が停止した。……レティシアは何も悪くない。……レイ、全部目を通したから、これ、アルノーに届けてやって」
「かしこまりました。本当に愛らしい花嫁様がいらして、ようございましたね、フェリス様」
何だかとってもニコニコしながら、処理済みの書類の山を抱えていく。
レティシアも何かお手伝いしたいな……。
隣でゴロゴロしててびっくりだったんだけど、フェリス様、異様に処理速度が速いの……! 日本のオフィスにいらしても、きっと神だわ……!
「慣れないこと? ……う、うにゃ?」
長椅子に二人で座っていたのだけれど、フェリスに腕をひかれて、
レティシアはフェリスのほうにだいぶ傾く。
「僕といると安心するなんて、本当に僕に似て、レティシアは変わってる」
「え? そうですか?」
ちなみに、フェリス様は、レティシアと僕が似てると言って下さるけど、
何なら、人類であることぐらいしか似てない気が……。
それすら、竜王家の人、やや人類以外も入ってる気も……。
変わり者なところを似てると喜んで下さってるのなら、稀有な話で、有難いけど……。
「たいがいの人は、僕といると、落ち着かないらしいよ」
「どうして? フェリス様が綺麗すぎるからですか?」
たしかに、フェリス様は、近くで見ると落ち着かなくなるような美貌の方なんだけど。
「その点はおおいに疑問だ。だってみんな、同じ貌のレーヴェの絵の前では、心が落ち着くとレーヴェを拝んでいる」
「フェリス様、絵姿と生とはだいぶ違うような……」
拗ね方が変なんだけど、フェリス様的には真面目に拗ねてるっぽい。
可愛い。
竜王陛下と安心度で真面目に競うフェリス様……、それは、神様相手ではちょっと分が悪いと思うの。
「うん。でも、レティシアが僕といて、安心して幸せでいてくれるなら、レーヴェも他人の評価も気にならない」
「他の方も仰らないだけで、フェリス様といて、安心されてると思います。フェリス様が優しい方なので。……竜王陛下は神様なので、安心度はまた別格だとは思いますが……」
なんだか、フェリス様、近すぎる気がするけど、気のせい?
いまにも御膝に乗せられそうな勢いなんだけど、ここ、おうちじゃないから……。
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