第167話 王弟殿下のちいさな婚約者
ひとしきり歓談した後、ルーファスが、殿下、語学の教授がお待ちです、としぶしぶお勉強に連れ戻され、フェリスはアルノーが持ってきた書類を確認している。
レティシアはその隣で、機密書類ではないから読んでもかまわないと言われた書類をめくってみている。
「ルーファスはずいぶんレティシアの様子が気になるようだったが……」
書類にサインしながら、フェリスが呟く。
「ルーファス様は、フェリス様が大好きなので、フェリス様の花嫁が気になるのでは? お眼鏡に適ったか心配です」
ストロベリーのマカロンを頂きながら、レティシアは応える。
美味しい、これ。幸せ。
今日のレティシアはいつもよりお洒落だいぶ頑張ってるけど、どうかな?
叔父上大好きな王太子殿下の厳しいチェックに堪えるといいけど。
「そういう様子でもなかったと思うんだけど……」
フェリスが言葉を濁す。
そうかな? フェリス様の心配して、話すとすぐ真っ赤になってらして、とっても可愛かったけどな!
「レティシア様はとてもお可愛らしいので、王太子殿下は、これからご結婚なさるフェリス様が羨ましいのでしょう。いつも叔父というより兄のように、フェリス様と同じことをしたがるところがおありですから……」
出来上がった書類を整理しつつ、にっこり、随身のレイが言葉を挟む。
「本当なら、ルーファスと似合いの年頃なのに、ずいぶん老けた結婚相手ですまない、レティシア」
ただ歩くだけで、その美しさで、王宮の人々に感嘆の溜息をつかせていた美貌の王弟殿下が、そう言ってレティシアに詫びてくれる。
あんまり萎れて見えると話が面倒になるから、と仰ってたせいか、今日のフェリス様はオーラましましで輝いてらした(あれって御気分で調整できるものなの!?)。
「……!? 私こそ申し訳ないです! 小さいこともですが、私に強い後ろ盾がなくて、フェリス様をお守りできない……」
王太后様は、フェリス様を弱くする為に、サリアでやっかい者扱いされてた王女のレティシアを花嫁に選んだのだ。それをお勉強途中の雑談で気づいて、へこんだ。フェリス様を守る強い実家の力を持たない娘を。
「……? そんなこと、小さなレティシアが気にしないで。……そもそも、嫁の実家の権力あてにして生きるくらいなら、もうおまえの人生諦めとけ、てレーヴェなら笑うよ」
「竜王陛下……」
この地には何もない、と嘆いたディアナの民に、何を言う、ないなら作るぞ、サボるなよ、相棒、と笑ったと伝えられる竜王陛下。……まあ確かに、嫁の実家に限らず、この世のどんな権力もあてにしそうな方ではない。
竜王陛下のお話にレティシアが笑うと、フェリスも微笑んだ。
「こんなに可愛いレティシアに、ルーファスが真っ赤になっても仕方ないね」
「……? 王太子殿下はフェリス様に真っ赤になってらしたんだと……? それに、私、フェリス様やリタやサキのおかげで、綺麗にしてもらって、可愛いと言って頂いてますが、ついほん少し前まで、哀れな不気味な痩せた王女でした。婚姻前なのは変わりませんが、誰も可愛いなんて言ってくれませんでした」
自分でも、鏡に映るサリアの小さな王女の顔を不幸そうだ……と思ってたくらいなので、それは他人も可愛いとは思うまい。
「たぶん、私が可愛く見えるとしたら、それはフェリス様といるからではないかと……フェリス様といるとおかしなことを言う娘だと言われなくて、わたし、いつも安心できて…楽しいので」
父様と母様が死んでから、うまく笑えなくなって。
もともと大人のようなことを言う娘だったんだけど、それも不気味だと悪評極めて、だんだん何も話せなくなってしまって…。
でもフェリス様は、おそらく御自分が小さい頃から難しい本とか読んでらしたせいなのか、小さなレティシアが何を言っても、驚かないし、不気味がらないし、引かない。
凄く嬉しい。
フェリス様の美貌もほかでは見たことないけど、一緒にいて無理をせずにお話しできるのが一番嬉しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます