第166話 初恋の姫君は鈍感


「叔父上……! こちらにいらっしゃると……!」


 何か外でにぎやかな声がする、と思ったら、少年が部屋に飛び込んできた。


「ルーファス?」


「王太子様」


 先日の王太后様の御茶会でお逢いしたルーファス王太子だ。


「王弟殿下、レティシア殿下、申し訳ありません」


「ルーファス様、まず、先触れを出しませんと…」


ルーファスの後を追いかけて来た女官達が、フェリスとレティシアに詫びている。

こないだに引き続き、王太子殿下の女官は体力が要りそう……!


「そんなの待ってたら、どうせ、叔父上たち、帰ってしまわれるじゃないか!」


 ぷく! とルーファス王太子は可愛らしく頬を膨らませてる。


「ルーファス、僕はいいけど、女官たちに謝りなさい。ルーファスが作法を破ると、彼女たちが後で叱られる」


 こら、とフェリス様が、ルーファス殿下の頬をつついている。


「お、叔父上、こ、子供扱いしないでください!」


 フェリス様に頬を突かれながら、レティシアに気づいて、ルーファス王太子は真っ赤になっている。同じ年頃の女の子の前で、子供扱いされて、恥ずかしかったのかな?


「案内もなく、部屋に飛び込んで来るのは子供じゃないの?」


  フェリス様は不作法を宥めながらも、あきらかにルーファス殿下が飛び込んで来て嬉しそう。


「だって、お会いしたかったのです。おばあさまがオイタしたと聞いて、心配だったので」


「おイタ……」


 フェリス様も、王太子つきの女官たちも、レティシアもちょっと笑ってしまう。


「ルーファス様は昨日、王太后様にも直訴に行かれたんですよ」


「王弟殿下の謹慎をお解きくださいって。既に、陛下が謹慎解除済みでしたが……」


「いつも王太后様には弱くていらっしゃるのに、大好きなフェリス様の為に勇敢でいらっしゃいました」


「その話はするな。だから嫌なんだ。うちの宮はいつも情報が遅い。僕はかかなくていい恥をかいた」


 唇を尖らせて、ルーファスは拗ねていたけれど、聞いてるレティシアのなかで、フェリス様の為に直訴してくれるなんて、王太子様ちっちゃいのに、いい人!!  とポイントがいっきに跳ね上がった。


「おばあさまは、何でも悪く誤解しすぎなんだ。だいたい王太后宮は常から雰囲気が暗い。もっと明るい女官でも増やしたらいいんじゃ……」


「ルーファス。……めっ。……だけど、僕の為に、ありがとう」


「お、叔父上の為というか、ぼ、僕が、叔父上に逢いたいからであって……そ、それに、もうすぐ御二人の結婚式で、お、御祝いごとなのに、……」


 フェリス様に額を寄せて御礼を言われて、ルーファス様は発火しそうに真っ赤になっている。


 そうなのよ。


 レティシアちょっと慣れて来たけど、間近で見ると、フェリス様、破壊力高いの。


 思考力を奪われる美貌というか……、そこは御本人なにも考えてないと思うけど。


「王太子殿下、ありがとうございます」


 レティシアも、感謝を込めて、可愛らしく、御礼の御辞儀をした。


 なんていい人なの。 

 優しいルーファス殿下のために、朝摘みの薔薇でも摘んでくればよかった。


 でも、王太子殿下はお会いする予定じゃなかったから(なので確かに飛び入りしないと会えないかも)


「と、当然のことだ。叔父上が、おばあ様の言うようなこと、する筈がない」


 耳まで真っ赤になってて、可愛いー。


 こんなにシャイなのに、フェリス様の為に、おばあさまに文句言ってくれたのね、殿下!


推し友として、殿下に何かあったときは、レティシアもきっと御力になりますからね!


 いつか、同い年の叔母として、殿下の初恋の相談とか乗っちゃうかも?


 ちょっと楽しみ!






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