第165話 推しに優しい人は、心の友
「お疲れ様、レティシア」
「フェリス様こそ」
陛下の御前を辞して、控えの間に戻って、二人で御茶を頂いている。
なんだか、この御茶、緑茶味!! 色も綺麗なグリーン!!
ディアナ、緑茶もあるのかしら……?
「フェリス様、謹慎解除おめでとうございます。本日から少し休暇に入られるとのことで、いくつか書類に目を通して頂く事は叶いますか?」
「うん。ありがとう。王太后宮のお返事を待つ間に目を通すから、こちらへ運んで? ……レティシア、かまわない?」
「はい。もちろん」
こくこくと、レティシアはフェリスの問いに頷く。
フェリス様は謹慎は解かれたけど、少し休暇をお願いしたのだ。
陛下は、無論だ、婚儀の準備を怠るでない、もとより休むように言っていたであろう、とのことだった。
「退屈しないように、何か御本持ってきてもらおうか?」
「大丈夫です。ゆっくり御茶頂いてます」
「レティシア殿下。ご無理をお願いして、申し訳ありません」
「いいえ。お役目ご苦労様です。わたしは、フェリス様がお仕事されてるの見られるの楽しいです」
にこっと、レティシアは、詫びてくれた背の高い青年に微笑む。
本日は社交日である。
笑顔も振りまき放題である。
ディアナ王宮では、『王弟殿下の婚約者』という興味津々の視線は感じるけど、レティシアは嫌われてなくて嬉しい……。
サリアでは、やっかい者の不気味な王女扱いになってしまってたので、笑顔もだいぶ枯れ果ててた。
「お噂のフェリス様の愛しの姫君の御尊顔を拝せて、本日は私、大変な役得です」
「……そ、そうですか?」
それって、どんな顔してたら、いいの?
「はい。御二人の控えの間に私が行くといったら、みんなから羨ましがられました」
そーなの?
お仕事仲間の人も、フェリス様が連れて来たちっちゃい花嫁に興味津々?
「お噂のレティシア姫が、こんな可愛らしい方だとは、フェリス様、少しも教えて下さらず……!」
「アルノー。レティシアを怯えさせない」
「いた、フェリス様、いたいです」
何か書状で、アルノー青年はフェリスに小突かれている。
「レティシアはまだこちらに慣れてないから、驚かせないように」
「もちろんです! 正直、もう少し年齢が近いほうが、とか、いろいろ余計な心配してたのですが、フェリス様とレティシア様は兄妹のように雰囲気が似てらして、お似合いです!」
そんな似てない兄妹……と思うけど、全力で笑顔で言って下さったので、御好意に、にこっとレティシアは微笑み返す。
いまはともかく、もっとずっと一緒にいたら、雰囲気が似てきたりするのかなー?
そうだといいなー?
「御二人ともお人形のようにお美しいですから、結婚式、ほんとうに楽しみですね!」
「……わかったから、アルノー、早く書類とっておいで」
手を振って、フェリス様が青年を追い出す。
「何かごめん、レティシア、うるさいのが……」
「いえ。フェリス様のお仕事仲間の方が明るい方でよかったなーと……」
ホントにそう思ってる。
何といっても、最初にお会いしたのが王太后様だったので、今日は、陛下といい、いまの方といい、フェリス様に優しくてしてくれる方に逢えて、とっても嬉しい。
推しのフェリス様に優しい方は、みんなレティシアの心の友!(勝手に)。
「フェリス様、王太后様のお加減、いかがでしょう?」
「そうだね。お悪くないといいが……」
王太后宮も可能であれば訪問しようとお伺いを立てたのだが、取次の女官いわく、王太后はどうもあまりお加減がよくないらしい。
フェリス様とメイナード伯を勝手に謹慎にしたのを陛下に咎められたので、その傷心で体調不良なのか、ばつが悪くてフェリス様と逢いたくなくて仮病なのかは不明。
「体調悪いときに、僕と逢ったら、悪化したらいけないから、今日はお逢いしないほうがいいと思うけど、陛下のところに参上してるから、義母上にも御声はかけないと……」
そんな訳で、お返事待ちしている。
たぶん、お会いするのは無理な気がするけど、この待ってることが大事。
ちょっとした不幸な行き違いはあったけど、王弟殿下は、王太后様にお怒りではなかった、本日もお義母様をお見舞いされるおつもりだった、と女官達が確認してることが大事。
「お逢いできたら、きちんと、誤解して悪かったと、フェリス様に謝って下さるでしょうか……」
「それは無理な気がするけど、兄上の為にも、僕にはまったく身に覚えのない話だし、僕は派閥など組んでおらず、今後も義母上にそんなおかしな誤解をさせるようなことのないように、よりいっそう身を引き締めて陛下にお仕えする、とお伝えするしかない」
フェリス様は困ってるけど、さきほど陛下と和やかにお話したばかりのせいか、このあいだの御茶会のときみたいに寒々と凍てついた様子ではなかったので安心した。
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