第164話 竜王陛下の剣の居場所
「レティシア姫はフェリスを見てどう思った? うちの弟はレティシアのお目に叶ったかい?」
「フェリス様を初めて見たとき……」
レティシアは五歳の子供らしく、ことりと小首を傾げた。
たぶん、国王陛下は風変わりなフェリス様じゃないから、大人のようなことを言う王女でなくて、外見通りの、可愛らしい子供と話したいと思うの。
「私、こんな美しい方を見たのは生まれて初めて、と思いました」
「美男であろう? 竜王陛下ゆずりの美貌じゃ。余は我が弟を見ていると、我が王家は本当にレーヴェ様と共にあるのだ、と信じられる……」
陛下は、最初、レティシアを茶化すのかと思っていたけれど、後半、レティシアでなく、何処か遠くへ語り掛けるようだった。
竜王陛下ゆずりの美貌を陛下から讃えられて、フェリス様は微妙に困っている。
ああそうだ。
同じ貌なんだけど、絵姿の竜王陛下は、そうだろ? 男前だろ? てかんじの自信に満ちた笑顔で、フェリス様はいつもちょっと戸惑い気味なんだ。まあでもフェリス様は立場的に、国王陛下より竜王陛下に似てるせいでお義母様に憎まれて、居心地微妙だから……。
お兄様の陛下まで、それを理由に、フェリス様を憎まないでいてくれてよかった……。
どころか、陛下のフェリス様を見つめる瞳は、まるでディアナの人が憧れの竜王陛下の絵姿を見上げるときみたいに、愛し気……。
「……わたしは、フェリス様が、どんな方なのか、とても怯えていたので、お会いしたら、優しい方で、とても嬉しかったです」
隣にいらっしゃるフェリス様的には、美しい方、より、優しい方、に照れるらしい。
ちょっとこそばゆそうな気配。
「ずっと、長いこと、誰も私の気持ちなど気になさらなかったのに、フェリス様は私の気持ちを尋ねて下さいました」
「そう、余の弟は、余に関する噂のせいで謹慎にまでなったのに、余の心配ばかりしているような男だ……」
「私の謹慎は、陛下のせいでは……」
レティシアと陛下の王弟殿下お惚気推しトークには言葉を控える様子だったフェリス様が、一言、小さく、言葉を挟む。
「竜王剣を覚えているか、フェリス?」
不意に、陛下が話題を変えた。
「……いえ。七年前、父上が亡くなり、兄上の戴冠の儀があって、子供心に初めて見る戴冠式に目を奪われておりましたが、私にはそのとき、竜王剣の記憶はなくて……、」
七年前。
戴冠式を珍しがる十歳のフェリス様。
可愛かったね、きっとー。
レティシア、まだ、この世に生まれてもいないね!
雪が、夜遅くまで社畜として、ばりばり、日本で働いてたね!
「そうか。フェリスは覚えていないか。……常の折には、竜王剣は、神殿の奥にあって、儀式のときぐらいしか動かさない。レーヴェ様なら、それは剣なのに仕舞い込んでたら意味がないだろう、とお笑いになりそうだ……」
陛下の御声は、なんだか寂しい。
(あれはいい剣だが、使い手の魔力に呼応するだけで、剣自身が何かするタイプの剣ではないからなあ。神殿なんぞに千年も飾られて、アイツもずっと困惑してるだろうよ)
いつもの空耳が聞こえて来て、レティシアはきょときょとしそうになる。しないけれど。
竜王陛下の剣……。
どんな剣なんだろう……?
それはディアナを守る剣なんだろうな……。
「ディアナを守護する神剣の名を用いて、陛下に仇為す噂を流す者を、とても放置できません。疾く捕縛できるように、追及を……陛下、万全を期して、陛下と王太子の身辺警護も増やして下さいましたか?」
「……ああ。そなたの言うたように。増やした増やした。……フェリス、余の事ばかり心配しておらず、そなたの身辺警護も増やすのだぞ?」
「私ですか? 私は……」
「そなたは、王太子につぐ第二王位継承者であり、民の人気も高いであろう。竜王陛下を焼くほど、ディアナ王家に悪意を持つ者がいるとしたら、余、ルーファス、そなたの身が狙われて当然であろう? レティシア姫の為にも、これまでより厳重に警護をつけるように。よいな?」
「……はい。我が身と我が妃にまでお心遣い、ありがとうございます」
「余が、余の弟家族の身を案じるのは、とうぜんのことであろう……」
ラブラブだわ、陛下とフェリス様! と嬉しいのだけど、陛下、何となく元気がないような気がするんだけど……大丈夫かしら? 公務が重なっていらっしゃるのかな……今日の拝謁も、今回の謹慎騒ぎで、急に都合して下さったんだし……。
「レティシア姫」
「はい、陛下」
「あまり芳しくないことが発端だったが、フェリスの可愛い妃と話せて、とても楽しかったよ。……フェリスを頼む。可愛らしいあなたがいつか成長して、一人で無理しがちな余の大切な弟を傍らで支えてくれたら余は心から嬉しい」
「身に余る御言葉、私こそ、陛下とお話出来て、感激に堪えません」
陛下とフェリス様推しトークできて、本当に感激してるのですが、陛下、なんだかお身体が心配なので葛根湯でも飲んで下さいとも言えず、レティシアは優雅に姫君らしくお辞儀するに留めた。
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