第163話 陛下に拝謁するレティシア
「陛下。この度の御力添え、感謝致します。私の不徳により、御手を煩わせて……」
レティシアが初めて見るディアナの国王陛下は、弟のフェリスとは少しも似ていなかった。二十七歳の筈だが、若者というよりは、落ち着いた印象だ。母のマグダレーナ王太后と同じ茶色い髪と、茶色い瞳。
対峙する二人を隣で見ていても、兄弟どころか、親族の趣きさえ見えない。まるでフェリス様は、弟というより、陛下の凄くお気に入りの若い騎士のようだ。
「来てくれて嬉しい、フェリス。そなたが詫びなくてよい。母上は驚きのあまり、ひどく動転していたようだ。そなたにもメイナードにも、まるで身に覚えのないことで、いらぬ苦労を掛けた」
陛下。
レティシアの心の中で、フェリス様推し同盟にそっといれときますね(恐れ多い)。
澄ましてフェリス様の隣に並びながら、レティシアはそんなことを思っていた。
「陛下に差し上げた書状でも触れましたが、街で、竜王陛下の肖像画を燃やそうとしていた僧たちもおりました。……竜王剣の噂と同時期というのが、平和なディアナの民の心を不安定化させようとしてるのでは、と気にかかるので、私のほうでも少し調べて参ります……」
あ、昨日のレティシアとのデートの時のお話だ。
竜王剣の噂と、竜王陛下の肖像画燃やしていた僧たちが、同じ犯人によるものでは、とフェリス様は疑ってるってことなの?
昨夜、くまちゃんとレティシアを抱っこして眠りながら、そんなこと考えてたの?
それは、ちょっと、レティシアにも聞かせて欲しかったな……。
聞いたから、レティシアが何ができるわけでもないけど。
「竜王剣の継承への不信もだが、ディアナで、竜王陛下を燃やすなど何よりありえぬ話だ。そなたが気にするのもわかる。……そなたが、余と同じように、如何にディアナを大切にしてくれているかを、聡明な母上が気づいて下さればな……」
陛下の、溜息一つ。
「……、………」
フェリス様は返す言葉に困って、無言。
お話聞かせてもらえなかったの、ちょっと拗ねてたけど、陛下のフェリス様愛に癒される。
嬉しいな。
フェリス様のご親族で、フェリス様のこと大事にして下さる方に逢えて。
「気の沈む話はひとまずおいて、フェリスよ、余に隣の美しい御令嬢を紹介しておくれ」
わ! つい、聞き耳頭巾レティシアと化してた。
ちゃんとしないと!
「私の大切な婚約者、サリアの王女、レティシア殿下です」
「……陛下。拝謁の機会をえて、光栄です。麗しのディアナに参れて、私はとても幸せです。そして、このたびは、フェリス様のまことを、陛下が信じて下さって、本当に本当に嬉しく思っています」
いけない。
本当に、心から感謝してるため、力が入り過ぎてしまった。
言わない方がいいのかもだけど、どうしてもどうしてもどうしても、一言、陛下に御礼言いたくて。
ありがとうって。
お義母様に濡れ衣着せられたフェリス様のこと、お義母様の言葉に惑わされず、信じて下さってありがとうって。
「……なんと可愛いちいさな姫君に、余の大切な弟のことを頼もうと思っていたら、さきに御礼を言われてしまったよ」
陛下は、楽しそうに、笑った。
たぶん、この為だよね、フェリス様がレティシア連れてきたの。
お義母様からの濡れ衣という、大変に微妙な話題の、話をそらすというか、和ませ役的な……。
「レティシア姫。姫の歳で、一人こちらに参り、心細いことだろうが、……我がディアナ宮廷でどんな美女にも心動かさぬと言われた我が弟フェリスが、レティシア姫をいたく気に入ったと余に申して、先日、たいへんに余を驚かせたよ」
「………、フェリス様が?」
いつのまにご兄弟間でそんな話が?
隣のフェリス様をちょっと見上げたけど、フェリス様の鉄壁の美貌では表情が読めない。おうちにいたら、すぐ笑って教えてくれそうだけど、いまはお外モードなので隙が……。
「さよう。姫が小さいので、余は少し夫婦仲を案じておったが、我が弟から誰かを気に入った等と実に人生初の発言を耳にしたよ」
「……兄上」
わあ。陛下にからかわれて、赤面するフェリス様。
可愛いっ!!
御前でジタバタする訳にもいかないので、心の中で一人で騒いでる!!
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