第162話 隣にいるだけで
「とても綺麗だね、レティシア」
レティシアに手を差し出しながら、フェリスはレティシアを見下ろした。
フェリスの手を借りて、レティシアはドレスの裾を裁いて、六頭立ての馬車に乗り込む。
「リタとサキとみんなが頑張ってくれた成果です。少しでも可愛くなってたら嬉しいです」
レティシアがそう言ったら、女官達が微笑み、フェリス様に髪を撫でられた。
いっぱい頑張ったー!!
得意分野ではないので、途中でちょっと燃え尽きそうになった……。
いやいや、燃え尽きちゃダメ、お洒落と言うか戦術だから、と気を取り直して頑張った。
「今日もとても綺麗だけど、レティシアは、いつもお人形さんみたいに可愛いよ、喋らなかったら。……喋って動いたほうが、ずっとおもしろいけど……」
「………!? フェリス様、わたし、褒められてます? からかわれてます?」
たいがいレティシアといると、フェリス様はずっとわらいっぱなしなんだから、可愛い子より面白い子がぜったいに正解だとは思うけど……。
「ぜんぶ褒めてる、つもりだが……。……僕の表現方法が伝わりにくかったら、すまない。もう少し、学習する」
言語学習中の、前世のAIのようなことを言われてしまった。
この世界にはないけど、人間が、人間に似せて、AIを作ったんだから。
AIの言語学習も、幼児の言語学習とおなじ。
あらゆる『言葉』を、たくさん聞いて、読んで、話して、習得していく。
AIなら、入手可能なかぎりのサンプルデータから。人間の幼子なら、周囲の者の話す言葉から。
当然、親や、それに似た、ごく近くにいる存在の、よく話す言葉を、たくさん習得する……。
親からたくさん愛されて、優しい言葉に包まれ、褒められて育った子供は、存在の核に自信をもつ。
それでは、親から褒められる機会の少なかった子供は……。
「……レティシア」
「はい?」
「僕が誘っておいてなんだが、今日、見世物になるようで嫌だったら、無理には……」
「わたし、今日はどうしても連れて行って頂いて、陛下に御礼を申し上げないと」
本日のレティシアは、リタにお願いして、ちょっとだけ、眉も強めに書いてもらった。
もしかして王太后様にもお会いするかもだから! て。
「陛下、わたしの大切な方を、助けて下さってありがとうございます、って」
馬車の中で、今日は絹の手袋に包まれた指で、フェリス様の指に触れてる。
うーん。
やっぱり、素手で、手を繋ぐほうが好き。
海にいったときみたいに。
朝の、人の少ない街を、二人で散歩してたときみたいに。
とはいえ、手袋越しでも、フェリス様と手を繋いでいられたら、少し強い気持ちで、いられる。
「そして、可能なら、お義母様にご挨拶して、先日のわたしの非礼を詫び、また御茶会に呼んでくださいとお願いすること。わたしの大切なフェリス様は、いつもお義母様とお兄様を愛してらっしゃいます、とお伝えして、信じて頂けるくらい、お義母様と、仲良く……なれるように……がんばる……こと」
後半、だんだん、語尾が弱すぎる。
そんなこと、現世も前世も社交上手でもないレティシアに難易度高すぎだが、人間、高すぎても、目標は持たなければ。
「レティシアの性格どうこうでなく、僕の妃の時点で、それはちょっと無理だと思うけど、……でも、ありがとう」
無理すぎる攻略目標を掲げて、だんだん綺麗な眉が寄ってくるレティシアを見ていて、フェリスが宥めてくれた。
「レティシアが隣にいてくれるだげで、百万の兵を得た気分だよ」
優しい声で耳元にそう囁かれたので、うん、がんばろう、お義母様に好かれなくても悪意がないことくらいは伝えられたらいいのにな…、と、可愛らしいドレスの下で、魂には気合が入った。
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