第161話 幸せな姫君の戦支度
「わたし、早く大きくなりたい」
「レティシア様……」
「今日も、わたしを連れて行ったら、フェリス様がきっと陰で何か言われる」
「そんなことは……」
「……わたしはフェリス様といられて幸せだけど、きっとフェリス様はあんな子供を妃にさせられて可哀想て言われるわ」
風変わりな、竜の血を継ぐ美しい王子様といられて、とても幸せだけど、人がどう見るかくらいは想像がつく。
「王宮の誰が何を言おうと、そんなことをフェリス様は気にしたりなさいませんわ」
「そうですわ。伊達に、変わり者の氷の王子様やってらっしゃいませんわ、我が主は」
異口同音に、サキとリタが言う。
「本当なんですよ。フェリス様は義母上と諍いがあると密かに傷つかれますが、世間の噂などはほとんど気にかけません。もう少し世間も気にかけましょう、フェリス様、と心配になるほどです」
「そうですよ。気になさるんなら、謂われなき風評被害にも、もう少しは対策されてると思いますよ。必要な公式のパーティにはちゃんと顔を出してらっしゃるのに、我が主が変人の引き籠り扱いされるのもまったく解せませぬ」
レティシアを励まそうという気持ちとともに、普段のフェリスの振る舞いも心配してるらしく、言い募る二人。
「フェリス様の御心おこころは誰にも計れませんが……少なくとも、レティシア様がいらしてから、フェリス様はずっと楽しそうですよ。フェリス様は、感情の起伏のわかりにくい、美しいお貌でいらっしゃいますが、ずっと仕えておりますので、私共にはわかります」
「生活も規則正しくなってますね。レティシア様にあわせて起きたり、食事したり、眠ったりと」
「……そうなの?」
そんなに気にかけて頂いてるんだろうか。それはフェリス様の負担じゃないのだろうか。
「レティシア様は幼いことを気になさいますが、フェリス様はレティシア様が幼いからこそ、御自分が母君を亡くしたときのように寂しい思いはさせまいとしてるのかと……」
レティシアと同じ、五歳の頃に母を亡くした、とフェリス様は言ってた。
王太后様はともかく、レイもサキもリタもこの宮の方々も、これからお逢いするフェリス様のお兄様も、優しい方々だけれど……。
きっと、この美しい竜の宮殿で、あの美しい王子様は一人だったのだ。
レティシアが、サリアの王宮で一人だったように。
「いろいろとおかしな噂がかき消えるくらい、二人で楽しそうに王宮を歩こうね、てフェリス様仰ったの」
竜王剣の噂を早く消したい。義母上というより、兄上の為に……と言っていた。
竜王陛下に似たお貌の、優しい魔法使い。
御自分の為にも魔法を使えばいいのに……、御自分のことにはとんと無頓着なうちの王子様。
「フェリス様の小さな花嫁は、うんと幸せそうだったって王宮で噂になるくらい、綺麗に着飾りたいの、リタ、サキ」
「もちろんでございます、レティシア様」
「わたしは本当に幸せだから、どうかその気持ちをドレスや髪にも込められますように」
「レティシア様の明るい笑い声やお優しい仕草からは、幸福が匂いたつようですわ。……それが遠目にも伝わるくらい、私達も腕によりをかけますね」
結婚式は、もう少し先だけれど。
齢五年の人生で、一番綺麗に見えればいいなあ、と思う。
話題の竜王剣がディアナの王を選ぶなら、ディアナの大事な王子のところにお嫁に来た子として、ディアナの神剣にもちゃんと認めて貰えるくらい、可愛く美しく。
姿形の造形のことではなくて。
凛と見えれば、いいなあと。
本当は泣いてばかりの、泣き虫王女だけどね。
一番大好きな、大事な推しのフェリス様を、いわれなき悪意から守ってあげられるくらい、今日は、華やかに美しく装えますように。
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