第159話 無邪気で幸せな姫君は、ドレスを選ぶ
「おはようございます、フェリス様、レティシア様」
「おはよう、サキ、リタ……戻るの遅くなってごめんなさい」
「とんでもありません、レティシア様。御二人でゆっくりして頂いてよいのですが……、私共も少しレティシア様の御仕度にはしゃいでしまって」
レティシアの私室のほうへ、フェリスに送ってもらうと、本日の為の候補なのか、華やかに可愛らしいドレスが広げられていた。何といっても貴婦人の装いの支度は、男子の戦支度のようなものなので、女官達も力が入る。
婚約者として付き添うのだから、フェリス様の瞳の色とあわせて碧いドレスもいいかなあ、とレティシアも戻りながら、考えていた。フェリス様は、謹慎を解いて頂いた御礼に参上する、と仰ってたので、あんまり派手じゃなくて控えめなドレスがいいかな……?
「フェリス様は、何色がお好きですか?」
「色?」
「はい」
「……琥珀かな」
「琥珀色」
琥珀のドレスかあ……、可愛いのあったかな……?
いかようにも、婚礼支度は、本人がどんより沈んでるあいだに全て完了していたので、レティシアは嫁入り道具にどんなドレスが入っているか、ちっとも把握してないのだ。
サリアから運んできたものと、お会いする前に、フェリス様からまだ見ぬ花嫁へと送って下さったドレスがあるはずだが……。
「では、レティシアの支度を頼む」
「かしこまりました、フェリス様」
目が覚めてからずっとご一緒してたせいか、フェリス様が帰ってしまわれるのがなんだか寂しい。
「フェリス様」
「ん?」
「先日の御茶会のような御無礼のないように気をつけますね」
反省してる。
あのとき言い返した内容には、ちっとも反省してないけど、とはいえ、世の中、何処で揚げ足とられるかわからないのだから、もっと隙のない振る舞いを心掛けば。
「……先日も、義母上と異なる、結婚への僕達の見解を述べただけで、レティシアは礼儀に恥じるところなど、何もなかったよ。……ディアナでの最初のパーティが楽しくないものになって、本当にすまない」
にこっと、フェリス様が微笑んで、レティシアの額にキスした。
「……フェ、リスさま……」
「今日、レティシアにお願いしたいのは、婚約中に謹慎になるような困った、変わり者の王弟と結婚してくれる、無邪気で幸せな姫君の役だよ」
「優しい王弟殿下と結婚出来て、私が幸せなのは本当のことなので、いつものようにしてて大丈夫ですか?」
くまのぬいぐるみを抱えて、レティシアはフェリスを見上げた。
バスケットは後で持ってきてくれるというので、くまさんだけ持って帰ってきたのだ。
「うん。いつものままのレティシアで」
うちの氷の美貌の王子様は、こう仰るけれど。
王宮の人みんなが異国から来た王女のレティシアに、フェリス様ほど優しいとは、無邪気な(?)レティシアも思っていないので、王弟殿下の小さな妃として、礼儀に叶った、品の佳い振る舞いを心がけよう……。
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