第153話 いちごと等価交換にて


「フェリス様、えびとアボカドのサンドイッチと、サーモンとフェンネルのサンドイッチ、どちらになさいますか?」


サンドイッチは、食の細いフェリス様のやる気をなくさないように、ちいさなサイズ。厨房の方々の細やかな心遣いなの。


「エビかな? レティシアは? おなかいっぱい? いちごは食べる?」

「はい。おなかはいっぱいですが、いちごは食べます」


本日のお夜食バスケットには、摘まみやすいようにと、いちごやベリーもたくさん入っている。これはレティシアの為でなくて、食事食べないときに、フェリス様がよく摘ままれるアイテムとのこと。


(基本、軽く摘まめるものが好きみたいなのね、フェリス様……)


「謹慎解除、おめでとうございます!」

「ありがとう」


お夜食の前に、フェリス様が出してくれた、いちご水で乾杯!


「フェリス様。私にいちごを食べさせるんじゃなくて、フェリス様が召し上がって下さい」


銀のフォークでいちごを掬って、フェリスがレティシアの口元に持ってくるので、

何だかとっても楽しそうな王弟殿下の指を拒みかねて、いちごを頬張りつつ、レティシアは文句を言う。


「僕はレティシアに食べさせる方が楽しいよ」


「じゃあ、フェリス様が何か召し上がって下さるたびに、私、フェリス様から、いちご一個ずつ頂きます」


「………? レティシア、それ、僕が不利じゃない?」


「そんなことありません。とても公平です。一個と一個です。等価交換です」


うん! 我ながら名案! 

フェリス様も栄養摂れて、レティシアも食べ過ぎない!


「ずっと私を御膝に乗せてて、重くありませんか?」


フェリス様の御膝の上にもだんだん慣れてきたけど……。


「重くない。どちらかというと、食物より、レティシアを抱いてる方が、力が湧く気がする」


「………?」


もしかして、フェリス様があんまり食べないのは、食べ物以外からも栄養が摂れるからなの?


竜王家の人って、そういうこともできるの? 


そのへん、ちょっと謎だけど、身体は人なんだから、食べ物からも、栄養は摂ったほうがいいよね。


「でも、きっと、ラムゼイ料理長や厨房の皆様が、フェリス様を心配して作られたお夜食にも、優しい魔法がかかってます。……はい、どうぞ」


レティシアは、いちごのお礼に、鹿の肉のサンドイッチをフェリスの口元に運ぶ。

フェリスの碧い瞳がレティシアを見つめ、薄い唇が素直に、レティシアの差し出したパンを食む。


「……レティシア、明日、兄上にお逢いするのに、一緒に行って貰える?」


「国王陛下にですか?」


「うん。兄上は僕に迷惑をかけた詫びを一言、と言ってるけど、僕は御礼に伺うつもり……、そこで兄上にお逢いして、可能ならば、義母上の御機嫌を伺って……これは無理ならかまわないけど、レティシアと二人で楽しそうに王宮を歩いて、……そのまま領地の花祭りに行こうかなと」


「……謹慎はあけましたが、お休み、おとりになるんですか?」


「うん。もともと、結婚準備に休暇を奨められてたけど、そんなに男は支度にかからないだろうって休んでなかったんだけど……、レティシアに花祭りも見せたくなったし」


「私とフェリス様は、できるだけ楽しそうに王宮を歩いて、婚前旅行に出かければよいのでしょうか? 王太后様の下した謹慎の裁可や、竜王剣の話など、初めから何処にもなかったごとく?」


「……うん。謹慎と竜王剣の噂より、どうやら僕がちいさな花嫁殿にひどく夢中らしい、て話のほうが、お喋り好きな方々には楽しく広まりやすいかなと……」


「……フェリス様の不名誉になりませんか?」


「僕が、正式な婚約者殿に夢中なことが、どうして不名誉に? でも、レティシアが目立つの嫌だったら、この案は却下する。兄上には僕が一人で逢って来るから、そのあと、二人で出かけよう?」


「いえ。嫌ではないです。少しでも悪い噂を書き換えるのに、お役に立てるのは、嬉しいですが……ちょっと、緊張します……」


「何も緊張しなくていいよ。いつも通りに、誰よりも可愛いレティシアでいて」


誰よりも可愛いレティシアは、かなりフェリス様の身贔屓が……。


まあでも、可愛い王女でも微妙な王女でも、フェリス様とレティシアが陛下のもとにご挨拶に行って、それから二人で婚前旅行となれば、確かに、とっても、御婦人方の話題にはなりそう……。


うーん、フェリス様のファンの方に、呪われないかな……。


「レティシア、いちご」

「ん……、ちゃんと食べましたか?」

「チキンと香草のパイ詰め食べたよ」

「偉いです!」


はむっと、レティシアは、フェリスの指からいちごを食んだ。

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