第152話 ふたりで一緒に

「何も出来なくないよ。レティシア、お夜食持ってきてくれるよ」


「お料理制作は厨房の方々ですが……」


「でも他の者に食べろて言われても、僕はきっと食べないと思うよ」


「…フェリス様、そこは威張るとこじゃないです」


これって、天然なの? 我儘なの? 王子様気質なの?


「レティシア、砂のお城の作り方も教えてくれた」


「砂のお城の作り方は、誰でも……」


「そんなこと、誰も教えなかったよ、僕には」


海岸を、手を繋いで、二人で歩いてたの。

朝の時間のせいなのか、人がいなかったから、碧い空と碧い海が交わる世界には、フェリス様とレティシアしかいないみたいだった。


意地悪な波に攫われて、せっかく二人で作った砂のお城が壊れたら、また作ろう、今度はもっと壊れにくいものを、てフェリス様が言ってくれた。


でも、砂のお城は、何度、波に壊されてもいいの。また一緒に、海に行けるなら。

お父様ともお母様とも、もう一緒に何処かに行けないけど、フェリス様は生きてるから。


「そして、ディアナでは誰もが怖れる、僕の義母上に食ってかかってくれた」

「す、すみません」


人生二度あわせても、なかなか、あんな大胆なこと、したことない。

あんな怖そうな義母上様に、文句の言える雪じゃない。


だけど、あのときは、必死だったの。何故かわからないけど、お義母様に言われっぱなしにしてたら、隣にいるフェリス様の心が壊れてしまいそうな気がしたの。


「ううん? 嬉しかった」

「反省してます。次は……」

「次は?」

「えっと、えっと、もう少し、優雅に、言い返します!  お義母様がひどくご不快になられないように……か、可愛らしく、華麗な感じに反論をば!」

「でも、言い返すんだ」


フェリスが笑いだした。

レティシアの肩に顔を埋める様にして笑っている。

なので、レティシアはくすぐったい。


「レティシア」

「はい」

「大好きだよ」

「………私も、大好きです、フェリス様」


とっても自然に言われたので、とっても自然に返してた。


「もう少し、ちゃんとした大人になるね、レティシアを不安にさせないような」


「………? フェリス様は十七歳なので……、十七歳は、まだ子供でいいと思います」


日本だと、高校生だもん。


フェリス様は王弟の公務や、当主やってらっしゃるから大人びてるけど、

そんなに凄く大人じゃなくていいと思うの。


十七歳はまだ成長途中だから、お肉もお魚もお菓子もたくさん食べなきゃダメだし、

学校の帰り道に寄り道とかしなきゃ(学校はスキップで卒業されてしまったみたいだけど……)。


だいたいレティシアが超小さいんだから、そんなに急いで大人になってもらっても、

さらに落差が……。


「お嫁さん貰っても?」

「私がまだ小さいので、一緒に大人になって欲しいです」


だから、何も、私に謝ってくれなくていい。

フェリス様がお義母上様からの攻撃に弱いのは、誰だって親族には無敵じゃないから。


完全な他人より、敵としては、だいぶ辛い。


「……一緒に?」

「はい。私がフェリス様に、我儘の言い方や、甘え方を教えます。フェリス様はちょっと、急いで大人になりすぎですから……」


「レティシアから、砂のお城の作り方から、学びなおすべき?」

「はい。ふたりで」


砂のお城は作れなくてもいいと思うけど、

フェリス様の笑いのツボに入ったみたいなので、そのままにしておくね!




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