第150話 少しずつ、お互いに、甘えることを覚えていく

「レティシア、薔薇水といちご水、どっち飲みたい?」

「うーんと……、じゃあ、いちごで」


どっちも美味しいんだけど……と、悩んだ末に、いちご水にする。

乾杯の赤! と思って。


フェリスが白い指を動かすと、いちご水のボトルとフルートグラスが現われ、

真っ赤ないちご水が華奢なフルートグラスに注がれる。


「フェリス様?」

「……魔力は貰わないけど、癒されるから、レティシアを膝に乗せてていい?」


 御寝間着ドレスの裾を裁いて、レティシアが長椅子に座ろうとしたら、フェリスにねだられた。


「………? それで、フェリス様が癒されるのですか?」


 ことりと、レティシアは金髪を振って、首を傾げる。

 甚だ、疑わしい。

 そんなのレティシアの体重分、フェリス様は重いだけの気がするが……。


「うん」


 尋ねたら、頷かれてしまった。

 それならいっそ遠慮せず、レティシアからいっぱい魔力を持っててくれればいいと思うのだが、それはフェリス様的にはダメらしい。

 なんて、美貌の、意地っ張り。


「……んしょ」


 これ大人としてどうなの!? と思ったけど、そうだった、いま大人じゃないから、大丈夫!(?) とレティシアは思い直した。


 小さい姫君としてもどうなの!? と思うんだけど、謹慎は解けたものの、元気のない婚約者殿のリクエストは叶えるべきでは……と御膝に乗ってあげることにした(……御膝のるのに、何故か偉そう)。


「フェリス様」

「ん?」

「謹慎解けたのに、落ち込んでるようにも見えます」


 レティシアは、フェリスの膝の上で、うまく落ち着ける場所を探してから、フェリスの白い頬に指で触れてみる。


「ううん? 喜んでるよ。ただ、兄上が僕を庇って下さったから、義母上、また機嫌損ねてるだろうなあ、と」


「う……。難しいですね」


「うん。ただ、僕にしてもメイナードにしても、あくまで陛下の臣下だから、本当は義母上が、陛下のものに、横から勝手なことしちゃいけないんだけど、ね……」


 陛下のものだから、ていうフェリス様が、なんとなく不思議。

 この誰のものにもなりそうにもない、綺麗な神獣のような人も、ちゃんと、ディアナの国王陛下のものなんだあ、と。


「フェリス様と兄上様は仲良しですか?」


 まだ会ったことないけど、国王陛下、フェリス様の無実を信じてくれてありがとう。陛下、そんないい方なのに、どうして竜王剣抜けないなんて、変な噂でてきたの。


「うん。僕と兄上は仲悪かったこと一度もないんだけど。まあ、周りは勝手なことを言うし、……何より、義母上にとって、兄上は奪われなかった父上だから…、あまり兄上が僕に肩入れすると、また義母上の心が壊れる…」


「フェリス様。虐められてるのはフェリス様です。王太后様の心配しちゃダメ」

「……あ。うん」


 この期に及んで、王太后様の心配してるフェリス様、なかなかのお人好しなのでは……。


 あ、そもそもがこの人、この貌で五歳の花嫁貰ってしまう、底抜けのお人好しだった。


「僕がちゃんと義母上とうまくやれないから、レティシアや僕の家の者に、迷惑かけてごめん」


「全くの冤罪で処分されたのに、フェリス様が謝らないで下さい。……ディアナの国王様は、罪なきフェリス様と一緒に処分された方の為に、正しい裁可を下されました」


 フェリス様が陛下の悪い噂撒いたとか、完全に義母上様の妄想であって、フェリス様、まったくの無実なんだから!


兄弟仲がいいから、兄上様がフェリス様を依怙贔屓したとかじゃないもの。


やってもいないことで、謹慎にされたのが、おかしいのー!


「陛下は、ディアナの法の正当性を守ってくれたからね。愛憎で、法が曲がる国では、誰も安心して暮らせない」


 レティシアと額を寄せて、フェリスが言う。


 そうなの。


 そうなんだけど、愛憎や欲得や、誰かの強い思惑で曲がりまくるの、法も政治も国家も王家も。


 それをちゃんとしっかり守っていくのは、なかなか骨が折れるの。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る