第148話 レティシアのお夜食バスケットと、くまのぬいぐるみ
「フェリス様!」
「レティシア?」
部屋のドアをノックしようと思って立っていたら、フェリスが出てくるところだった。
「フェリス様、何処か行かれます?」
フェリス様、誰かのお部屋にお話しに行くなら、お夜食どうしよう。
おいていこうかな。
うーん、おいていったら、フェリス様食べない気がする……。
フェリス様のお部屋で、帰ってくるまで待ってようかな?
お邪魔かな?
「うん。僕も、レティシアの部屋に行くつもりだったから、ちょうどよかった」
「私の部屋に? 以心伝心!? お腹すきましたか、フェリス様!?」
行き先は、私の部屋! それなら、悩む必要なし!!
「ん? 空腹? 何故?」
「え? 違います?」
あれ?
違ったみたい。
ディナーの時間だー、今夜は食欲いつもよりさらにないと思うけど、口当たりのいいものだけでもフェリス様が食べるように見張らなきゃー! と思ってたら、早馬が来たり何だりで、フェリス様夕食どころじゃなくなっちゃったから、そろそろレティシアと一緒にお夜食タイムの気分なのかな~と。
「うん。食事のことは考えてなかったんだけど、レティシア、僕がディナー欠席したから、食べてないとか? 何か作らせようか?」
途端に、心配そうな顔になるフェリス様。
「いえ。私はちゃんと食べました! フェリス様が食べてないので、お夜食をば……」
「あ。……そうなのか。レティシアとくまさんのお夜食隊なのか」
「はい」
くまちゃんとバスケット、両方持つのは、この小さい身体だとちょっと大変なんだけど、でもくまちゃんもいるかも、フェリス様に貸してあげなきゃいけないかも、と持ってきてしまった。
フェリス様はまだくまちゃんの真価に気づいてくださらないんだけど。
「ありがとう、レティシア」
わあ、極上の笑顔。
なんだか、ちょっと照れたような、可愛いらしい笑顔。
フェリス様、美貌すぎて、遠めに見てるとちょっと能面みたいに見えるんだけど、吐息が触れ合うくらい近くでよく見てると、細かくいろんな表情があるんだよねー。
「いえ。私は運んでるだけで、シェフの力作です」
なので味は確かなの! と心でドヤっている。
うう、前世の雪も簡単な料理はしたけど、社畜庶民のやっつけ簡単ごはんだからね…。
「入って。……おかげで美味しく食べられるよ」
「え、……きゃあ? フェリス様!?」
入って、と言われたので、入ろうとしたら、レティシアは、バスケットとくまのぬいぐるみごと、フェリスに抱き上げられた。
と、遠い、床が。
白い可愛らしい御寝間着ドレスの下から、前世のバレエシューズのようなベビーピンクのルームシューズが覗く。
「フェリス様、高いです……」
「レティシア、陛下から使者が来た。僕とメイナードの謹慎、解除された」
「……おめでとうございます!!」
あああ、料理長ごめん!!
バスケットとくまさん放り投げて、フェリス様の首に思いっきり抱き着いちゃった!!
サンドイッチ、潰れてないといいけど……!!
「それを一番にレティシアに言いに行こうと思ってたら、レティシアとくまさんのお夜食隊が来た」
「いまから御祝いのディナーしますか? みんな、きっと喜びます!」
それはやっぱり、妃(予定)のレティシアも心配だけど、お仕えの人達も、当主の謹慎はとっても暗い気持ちになると思うの。
あわや、御家取りつぶしで、失業の危機、もまったくないとは、言えないんだから。冗談みたいな話だけど、宮廷社会、いきなりほぼ完全なる難癖で、お家取りつぶされたりもするので。
「いや、夜食は、レティシアとふたりがいいよ。……皆にも気苦労かけてるだろうから、レイから全員に回してもらってるから。……ごめんね、レティシア、心配かけて」
「嬉しいです! 国王陛下に御礼の御手紙書かなきゃ。……処分のお許しのお願いの御手紙書いてて、フェリス様に添削してもらう予定だったのですが、嬉しい書き直しです!」
ぎゅーっとフェリスの腕に抱き締められると、レティシアの足先から床は遠くて心許はないけど、うーんやっぱりフェリス様も、平気だよ、て言っていつものように平気な顔してたけど、ぜんぜん平気ではなかったんだな、とあたりまえなことを想う。
レティシアはちいさな手で、フェリスの輝く金髪を撫で撫でした。
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