第147話 竜王陛下とレティシア

「竜王陛下、フェリス様の謹慎、早く解けますように」


レティシアは、お気に入りの竜王陛下の絵の前で一人でお願いをしている。


流石に廊下に飾ってる絵なので出来ないが、元日本人の性質が抜けきらず、

思わず美味しいパンとか御茶とかお供えしたくなってくる。


「噂の竜王陛下の剣てどんな剣なんでしょう? もしかしてこの剣ですか?」


レティシアのお気に入りの絵の竜王陛下も剣を持ってらっしゃるので、この剣かも知れない?


「三種の神器(じんぎ)的なものなのかなあ……?」


前世で、日本の王様の地位の、天皇様が退位なさるとき、動画配信してた。


通勤途中に、ちょっとだけスマホで配信見たけど、皇位継承のときに継承される

「草薙の剣くさなぎのつるぎ」「八咫鏡やたのかがみ」「八尺瓊勾玉やさかにのまがたま」の三つの神器が紹介されていた。


前世の神器の場合、退位される天皇様から新しい天皇様に継承されるだけで、

「竜王剣が王を選ぶ」的なファンタジーな逸話はなかったと思うけど……。


「でも千年も前の剣って現役なのかな? 竜王陛下の剣だから特別仕様なのかな?」


知らずに、レティシアは、夫のフェリスと同じことを言っている。


「竜王陛下。フェリス様は強い優しい御方だけど、……嫌なこと言われたら、他の人とおなじように、傷つくと思うんです。……何かこう……、フェリス様、御自分の痛みには無頓着そうなのが心配です」


ごはん食べるの忘れちゃうのも、心配。


でも、何となく、わかる気もする。

嫌なことを言われるのも日常化してくると、自分の痛覚が鈍くないと毎日が辛い。


律儀に、毎回傷つくのはしんどい。

だから、身体なり精神なりの、防御作用で鈍くなっていくのかも……。


「……王太后様は、被害妄想強すぎだと思うんです、竜王陛下。きっと睡眠足りてないんです。よく眠れるようにしてあげて下さい。そうしたら、少しはちゃんと……」


見れるんじゃないかなあ、フェリス様のこと。


哀しい表情をしてるんだよ、お義母様とお話するとき。

いや、普通に見ると、普通に超絶綺麗なお貌なんだけど。


寂しい瞳をしてるんだよ……。


「……竜王陛下、本当にフェリス様に似てるー……」


レティシアが、穴が開くほど、じーっと琥珀の瞳で見つめていたら、何となく絵の竜王陛下が照れたような気がした(もちろん気のせい)。


「この優しい笑ったかんじとかそっくり……、お顔似てるから、お声も似てるかな」


こんなに似てると、王太后様が嫌がるのも無理ないの?

でもそんなのフェリス様のせいじゃないし……。


「あ! 竜王陛下、今日、フェリス様と海に行ったんです。海と空の碧がフェリス様の瞳の色みたいでした。一緒に砂のお城作ったんです。フェリス様、砂のお城作るの初めてって……」


本ばかり読んでいた、魔法の得意な賢い美しい少年にはたぶん、一緒に砂の城を作る相手がいなかったのだ。


大きくなるために、ごはんを残さず食べなさい、御菓子ばかりじゃダメ、と叱る相手もいなかったのだ。


「また、行きたいです。一緒にお出かけ。また行きます、きっと! ……とりあえず、フェリス様、夕方パタパタしてらして、またごはんサボってらっしゃるので、これから私、お夜食隊行ってきますね! おやすみなさい、竜王陛下。早く謹慎とけますように!」


ぱたぱた、お夜食のバスケット抱えて、月明かりの廊下を走って行くレティシアから、おやすみの投げキッスを頂いた竜王陛下は、レティシアのちいさな背中に盛大に祝福を投げ返していた。


(ほーんと可愛いったらないよ。世界広しと言えども、オレに似てるじゃなくて、フェリスにオレが似てるなんて言うのはちびちゃんくらいだよ)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る