第146話 大事な姫君にふさわしい男にならねば
世の中の人はおかしなことを言う、
とフェリスは時々思うのだが、たいがいフェリスは多数派ではないので、
まあ世の中が正解で、フェリスは間違っているのだと想う。
ただ。
創始の竜神様と、顔が似てるから、王になれ、というのはどう考えても、おかしくないか? と正直想っている。
想ってはいるが、そう考える人が、何故かけっこうたくさんいる。
気性や振る舞いが似てるならまだしもかも知れないが、レーヴェとフェリスでは性質も全然違う。
レーヴェは陽気で人懐っこい面倒見のいい性格で、道端に誰か倒れてたら、ディアナの民だろうとなかろうと、何なら人だろうと魔物だろうと、助けるだろう。
フェリスは同じ貌でも、
人や世界にどう対していいか、戸惑ってしまう内向的な性格だ。
生まれた時から三界に怖れるものなし、の自由な気性の神様と比べられても困る、とは思うのだが。
最近はフェリスのところでのんびりご隠居しているレーヴェだが、
いまもなお、ディアナで竜王陛下の威力は絶大であり、毎回嫌がらせされてる本人だからあんまりだとは思っているが、義母上のあの病的な警戒も仕方ないのかもしれない。
レーヴェが王として采配を揮ったのは千年も前の話だから、いま生きてる人で、本当に竜王陛下を知る人なんて誰もいないのだが、ずっとレーヴェがこの地を守ってくれている、というのがディアナ人の心の根幹にある。
(過ぎた偏りは、人も物も歪める。いい加減なくらいが、ちょうどいい)
誰かをあんまり愛しすぎること、その人に全てをかけること、は、苦しい。
義母上を見ていると思う。
フェリス自身は、申し訳ないが、接する機会が少なかったせいか、父にあまり思い入れがないのだが、義母上はよほど父が好きだったのだろう……。
だから、父を奪ったフェリスの母を許せないし、フェリスの事も許せない。
あるいは、父王への思いもさることながら、自分の人生そのものを肯定したいのかも知れない。
ステファン王と結婚して間違ってなかったと。
こんなことを言ったら何だが、父が王でさえなかったら、義母上は離婚して、あらたな人生も選べたんだろうか? 自分を裏切らない、あんなに数多くのしがらみのない男との人生を?
考えたところで、そんな仮定には何の意味もない。
そして、義母上は、いま、兄上を守ることに、全精力を傾けている。
どうあがいても、フェリスは、善良な兄上を苛める敵役だ。
(は、ははうえ、フェリスは悪くありません……そ、それは僕が……!!)
昔から優しい兄上。
叶わぬまでも、いっしょうけんめい、義母上からフェリスを守ろうとして下さった。
あまりに兄上が優しい方なので、兄上に無礼な態度をとる貴族の青年たちもいたので、悪い魔法使いのフェリスとしては、貴族の青年たちに、少し礼儀を教えて差し上げた。我が兄を侮辱するとは、それなりの覚悟はおありなのかと。
そんな風に、男相手なら、まあまあ武芸なり魔力なりでねじ伏せられるのだが、
これが義母上のように女性相手になるとさっぱりお手上げだ。
義母上が間違ってるとわかってても、存在している空間を歪ませるほどの、愛情だとか哀しみだとかには、どうにも太刀打ちできないのだ。
とは言え、レティシアを迎えて、我が身だけの身ではなくなるなら、もう少しちゃんと自衛しないといけない。
変わり者扱いも、あんまり竜王陛下の生き写しとか言われてしまい、兄上に申し訳なくなってきて、半ばフェリスが自分で王弟の奇人扱いを煽ったようなところもあるのだが、流石に改めよう。
フェリスの妃の名の為に、これからレティシアが嫌な思いをしなくていいようにしてあげたい。
「フェリス様、陛下からの御使いが……!!」
「ああ、早かったな。今日中に来たのか。……通してくれ」
謹慎は解かれると思う。それについては、現時点では、ただの義母上の癇癪の爆発だろうから、そんなに心配はしてない。メイナードに酒でも奢って機嫌をとってやらないと、とは思うが。
二人の謹慎騒ぎで、問題の竜王剣の噂が広まらぬことを祈るばかりだ。
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