第143話 氷の美貌に悩む王弟殿下
「……レティシアが泣いてる気がする」
フェリスが眉を寄せる。
「………!? ああ、ホントだ。ちびちゃんが泣いてる。フェリス、おまえ、オレより神獣度あがってるな」
くんくん、と鼻を鳴らすようにして、竜王陛下も、あたりの気を辿る。
「いえ。レティシアのことしかわかりません。レティシアと離れていても、何かあったときに、気配を辿れるように、先日、僕の力をあの子にわけたので」
「わあ……。重い……」
「うっとおしいでしょうか……」
レーヴェに笑われて、フェリスはちょっと戸惑う。
「さあ? それはちびちゃんが決めることだからな。フェリスがずっと一緒にいてくれるみたいで嬉しい子もいれば、嫌な子もいるんじゃない? 守られる本人の意思を尊重するように」
「はい」
「おや、素直」
「……経験のないことをしてるので。こういうことはレーヴェの専門かと」
誰かを守ろうなんて、したことがないので。
未知の領域である。
母を守ってあげたかったけど、その頃は幼なすぎて何もできなかった。
それ以後、フェリスに、守らせてもらえるような人はいなかった。
「オレはあんまり細かいことに気の付くほうじゃないから、アテにしないように」
「……何を泣いているんだろう?」
「ほっとしたんじゃないか? メイドちゃんたちの顔見て。フェリスの謹慎にびっくりしたろうから」
「僕のところでは泣いてませんでした」
「そりゃーフェリスを励まそうと必死だったんじゃないか?」
「ですが……」
「……ん?」
「レティシアは、僕より、女官のほうが心が寛ぐのでしょうか? やはり、僕の貌は人の心を安らげるのにむかないんでしょうか……」
「いやそれ、貌のせいじゃないから。オレ、全く同じ貌だけど、癒し系竜神様だから。……そーいうんじゃないだろ。そこは、女同士とか、お母さんみとか、恋人とか、いろいろ、対象が違うだろ。まったく面倒くさい男だな」
「僕にレーヴェのような真似が出来ないのは百も承知ですが……、レティシアには、僕のところで泣いて欲しいです」
「オレに言われてもな。それは本人に頼め」
「何といって?」
「素直に、勝手な男で申し訳ないが、泣くときは、僕のところで泣いて欲しい、だろ。……ダメだ。内気なフェリスの口説き文句を考えてやる歳になったのかと思うと、笑い死にそうだ」
カウチに寝そべって、陽気な竜神様が笑い転げている。
「レーヴェ、僕は真面目に悩んでるんですが」
「とにかく、こんなとこで男二人で、死ぬほど馬鹿な事言ってても仕方ない。考えるより、とっとと、ちびちゃんとこ行ってこい」
「ちょ、レーヴェ……!」
竜王陛下が、邪魔そうに、掃き出すように右手を振ると、フェリスの姿が自室から消えた。
「なあ、マグダレーナ。泣いてたあの子は大きくなったよ。いまでも、可哀想に、おまえの機嫌を気にして生きてるんだけどな。……だけど、好きな子もできたみたいだから、いつまでも、おまえの無理を聞き続けてはくれないと思うぞ? ……それに何より、おまえだって、少しも幸せそうじゃないじゃないか?」
誰もいない空間に向けて、レーヴェは告げた。
その声はもう、涙の池の底に一人溺れてしまったかつての少女には届かないのだけれど。
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