第141話 竜王剣の持ち主について

「レーヴェ」


レティシアの出迎えに癒されてのち、自室で一人になって、フィリスは竜王陛下を呼んでいた。さっぱりわからない竜王剣のことは、やはり元の持ち主に聞くのが一番だろう。


「レーヴェ、聞きたいことがあります。……お忙しいですか?」


「……忙しくはないんだけどなあ……」


やっと出て来てくれた竜王陛下は、いつもよりは勢いがない。

だいたいいつも、呼ぶ前に出て来るのに。


「レーヴェの竜王剣のことを教えて下さい。……何故か、民が、あまり芳しくない噂をしているそうなのですが……あれは、装飾用の宝剣ではないのですか?」


「怒るぞ、たぶん。聞いたら。現役の剣だって」


それはいつものレーヴェらしい笑い声だった。


「……現役の? 千年前の剣ですよね?」


「うん。でも、オレの愛剣だから竜気を帯びてるし、千年も神剣として祀られてるから、すこぶる状態がいいんだよ。いまも、オレが呼べば、喜んでここに飛んでくると思うよ」


「いえ、呼ばないで下さい。宝剣盗難で僕の罪状が増える。レーヴェが呼んだって言っても、普通の人には通じませんから」


「そりゃそうだな」


「現役の剣で、いまも使えるという事は、抜けないってこともない筈ですよね?」


「んー。抜けないこともある」


「何故ですか?」


「我儘だから」


「………!? 剣の話ですよね?」


「うん。剣の話。オレの剣だけあって我儘だから、あいつ、気に入った者にしか抜かせない。……ずっと、オレの気に似た者を選んでる」


「そんな恋みたいな……」


「まあ一番の相棒だからな」


「……レーヴェに似た気を持ってないと、抜けない剣……?」


フェリスはどちらもよく知っているが、兄マリウスとレーヴェはだいぶ雰囲気が……。


「オレに似てなきゃ王になるななんて、オレは全く思わんが、竜王剣が選ぶ者を、て後世の誰かが決めたもんで、たまにややこしいことに……」


「兄上は、七年前、つつがなく竜王剣継承の儀式をすませ、戴冠式に臨まれてます……」


確認するように、フェリスは言う。


あのとき、フェリスは十歳だった。

父の葬儀から兄の戴冠式への慌ただしさで、あまり細かいことは覚えていない。

竜王剣自体も、宝剣として飾られていた、ぐらいの記憶しかない。


「根も葉もない……噂を……何とかしないと……」


「誰が言いだしたんだろうな? そうそう普通に暮らしてて、竜王剣の好き嫌いが気になる奴もいないと思うが……」


そうだ。いったい、誰がそんなことを?

王弟で王位継承権二位の位にあるフェリスでさえ、知らなかった話を、何処の誰が、何故……?


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