第139話 姫君の座す場所について
「フェリス様、あの……」
レティシアは、困っていた。
フェリス様が帰っていらした……!! と喜び勇んでお迎えに行ったら、蟄居謹慎などと寝耳に水な物騒な話を聞かされ、それはぜったいにどう考えても、昨日のレティシアの振る舞いの責任……!! と感じた。フェリス様はお優しいので違うというが、そんな言葉を信じてはいけない。
(おまえのせいだ、おまえが悪い、なんて言いそうな御方でもないのだから)
王太后様に許してもらえるかどうかは、どころか会ってもらえるのかすら、果てしなく怪しいが、謝りに行かねば!! 許さるまでずっと跪いて待とう!! と思ったのだが、
フェリス様に、違うから、と、とめられてしまった。
フェリス様いわく、謹慎の原因は、街の噂からの王太后様の誤解で、昨日のレティシアは無関係だと言う。国王陛下がらみの竜王剣の噂が原因にしても、フェリス様は無実、と訴えに行きたい。
というか、さっきのご説明では、フェリス様の何がどう悪かったのかよくわからない。
いったいぜんたい王太后様のなかで、フェリス様はどんな悪役設定になってるの。
「フェリス様、あの……御膝……、私、重くないですか……降ろして頂いたほうが……」
それはそれとして、いつのまにかフェリス様の膝に乗せられて、お話してた!!
いくら、いま現在のレティシアが、御膝乗せにちょうどいいサイズだからって、
これは姫として、ちょっとダメなのでは……!!
父様でもないフェリス様の膝の上は……!!
「重くない。レティシア、軽すぎだと思う。もっとたくさんお食べ」
離すと何するかわからないと疑われてるのか、全く膝から降ろして貰える気配がない。
「私、たくさん食べてます。フェリス様にもっと食べて頂きたいです……」
そして、何故だか、フェリス様は、とても御機嫌……。
最初に、謝罪に行きます!! とレティシアが叫んで抱きとめられたときは、謹慎を命じられた為、雰囲気が重く沈んでらしたように思うんだけど、
レティシアとの会話がツボに入りまくったらしく、たくさん笑ってらっしゃるうちに、だいぶ元気になられたような……?
疲弊してらっしゃったのが、元気になられたのはいいことだと思うんだけど。
「そういえば、フェリス様」
「ん? なに?」
綺麗な、硝子細工のような、碧い瞳。
今朝のディアナの空と海の碧を綴じ込めたように。
ほんのついさっき、帰って来たばかりのときは、ひどく暗い色だったけど、いまは明るい、綺麗な優しい色。
フェリス様って、無表情そうに見えて、もしや物凄く感情のはっきりした方なのでは…。
「先日、フェリス様、魔法の授業で、私が倒れた時に、魔力を分けて下さいました」
「ああ……」
「フェリス様、きっと酷い冤罪疑惑に消耗されたと思うので、どうぞ私から魔力を召し上がって下さい」
「召し上が……っ?」
うう、またフェリス様が爆笑してる……。
笑うと寿命が延びるって元の世界で聞いたことあるけど、私、もしかして、フェリス様の寿命、地味に延ばしてるのでは……。
……間違ってた? 魔力吸ってくださいっていうのも変かな? と思ったんだけど、それって、何ていうんだろう? 正式には? なんだか吸血鬼っぽいけど。
「優しいレティシア。そんなこと、僕以外には、絶対言っちゃダメ」
「……? はい。フェリス様以外に言う機会はないと思いますが」
フェリス様以外に、レティシアに、魔法使いのお友達はいないので。
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