第133話 隣にいる気配に慣れていくことについて

「海の広場に何故かリリアの花がたくさん降って来たと、買い物に出ていた厨房の者が申しておりましたが、レティシア様、ご覧になりました?」


レティシアの部屋に戻って、お着替えしましょう、と手伝ってもらいながらお喋り。


「あ、その花は……」


それはフェリス様が降らした花! と言いかけて、ん? おうちの人とはいえ、フェリス様が内緒て言ってたから、内緒かな? おうちなら平気? と唇を押さえてしまった。


「レティシア様?」

「あ、うん。お花、たくさん降ってきて綺麗だったー」


とりあえず、フェリス様に確認がいるかも、とみんなにも内緒に。


フェリス様、あんな魔法使えるのに、昨日はフリーズしてた……まるで、これ以上、処理不可能、て壊れていく精密なパソコンみたいで怖かった……。


「あらあら。レティシア様、一度、お湯使いましょうか? 髪にも砂が……」


「ドレスも裾がほつれてしまいましたね…」

「え……、ごめんなさい」


「いえ。私共に謝る必要はございません。お外にお出かけでしたから、ドレスに傷みもそりゃあございますとも。まして、レティシア様はおちいさいですから、御召し物はいくらかダメにするくらい、遊ぶのは元気な証しです」


本日のレティシアは、ホントにちいさい子として、ぞんぶんに遊んでしまった……。


海辺ではしゃいで走ってしまった。

フェリス様、レティシアの子守り大変だったのでは。


一緒に、砂の城、作ってくれた。

フェリス様が優しいからって、また我儘放題言ってしまった。


ちょっと反省。

でもご一緒できて、楽しかったの。


ずっと一緒で、ずっと手を繋いでたから、フェリス様の気配が、いまは隣にないのが少し寂しいくらい。


「海に行ったの。フェリス様とね、海で、砂の城作ったの。フェリス様、砂の城、初めて作ったって言ってた」


海の傍で育った男の子なのに、砂の城作ったことないなんてあるのかしら? 王子様はそんなことしないの? サリアには海なかったけど、海があったらぜったいお母様と遊んでたと思うな……とレティシアは不思議に思った。


「まあ……。それは……、それはきっと、フェリス様にも忘れられない一日になりましたね」

「そうかな? そうだったら、嬉しいな」


人生二度通しての初デートは、凄く楽しかった。


二度目の人生、もしや一度目よりハードモードでは? と参ってたけど、生き急いで、修道院に行かなくてよかったかも……。


「じゃあ、お湯、使います。……フェリス様と初めてお外にお出かけしたドレス、なおりそう?」

「ご安心下さい。この程度なら綺麗になりますから」

「よかった。今度から暴れてもいいように乗馬服で行こうかな?」


お姫様のドレス可愛らしいけど、ドレスの裾で常に地面を掃除してるようなものなので、普通に歩いてても傷むよね。


「乗馬服も可愛らしいですけど。レティシア様のドレス姿は、これから咲き匂う薔薇の妖精のようですわ。御二人で並んでらっしゃると、本当に絵のような御二人す」

「似てない兄妹?」

「あら、御二人は、似てらっしゃいますよ」

「私、フェリス様みたいに美形じゃないよー」


「そんなこと……レティシア様もとってもお美しいですけど、御顔のことじゃなくて、何となくフェリス様とレティシア様には似た雰囲気がおありですよ。やはり御二人は、ご一緒になるべく星に定められた運命なんでしょうね」


リタが年頃の少女らしいことを言っている。


「これから長く一緒にお過ごしになるのですから、きっと御二人はもっと似てこられますね」


レティシアがドレスを脱ぐのを手伝ってくれながら、サキ。

一人で着替えが出来ないというのが、なかなか大変……。


「そう? かな? そうだといいなー」


レティシア自身は、レティシアとフェリスが似てるとは到底思えないが。


仲良しの友達にしか通じない言葉とか、家族にしかわからない言葉とかはあるから、二人でずっと一緒にいるとしたら、いつかは、そんなふうな二人になれたらいいなー。


今朝も、きっとレティシアの気晴らしに、外に連れ出してくれたんだろうけど、

朝の海辺の太陽の下で、フェリス様の雰囲気も明るくなっていって、一緒にいて嬉しかった。


昨夜、お夜食持って、フェリス様のお部屋に行ったときは、やっぱりちょっと昏い影が纏わりつくような気がしたんだけど、うっかり二人で一緒に寝ちゃって朝起きたときには、ちゃんといつものフェリス様だった。


ごはんとお散歩、大事。

基本、栄養と運動だよね、人間!


「私の髪がいい匂いってフェリス様が言ってた。リタの言ってた薔薇の石鹸のおかげ……」


「あらあら。それは当家の製品ですから、おなじクラスのものを、フェリス様はお使いの筈ですが……、レティシア様自身の香ととけると、レティシア様の匂いになりますからね」


「そうなの? フェリス様の髪も、私と同じ香なのかな」


自分の匂いは、自分ではわかりにくいなー。

じゃあ、同じかどうか、フェリス様の髪の匂い、こんど嗅いでみよう……。


二人で騎乗したときみたいに、あまりに近すぎるのは緊張するけど。


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