第132話 大事なものはおうちのなかに

「わーん、竜王陛下ー、御無事でよかったー」


レティシアは廊下のお気に入りの竜王陛下のタペストリーの前でほっとしている。


もちろん広場で燃やされかけてたのは、こんな豪華なタペストリーではない。


簡易な様子の肖像画だったけど、やっぱり、うちの竜王陛下は無事かな!? と確認してしまう。


レーヴェが見たら、絵姿のレーヴェの無事を確認しているレティシアがあまりに愛らしくて、ますますメロメロになることだろう。


「やっぱり、人ん家の神様、燃やす人、苦手……」


もともとが、クリスマスもハロウィンもお盆もお正月も、ぜんぶ違う神様を拝んでいて、何の問題もない日本育ちの子なので。宗教戦争など授業で習っていても、なんで神様が違ったら戦争なの? とクエスチョンだったくらいである。


「何かあったのですか、レティシア様?」


「うん。今日ね、広場で、竜王陛下のこと悪く言って、竜王陛下の絵を燃やそうとしてるお坊さんがいてね……びっくりしたの」


「まあ。なんて不心得な輩でしょう。罰があたればいいのに。レティシア様、危険はありませんでしたか?」


「うん。フェリス様いたから」


護衛の人もいたけど、気のせいか、護衛の人達より、フェリス様のが強そうだった……。


「レーヴェ様の神殿の僧ですか?」


「ううん。リリアの僧て言ってた。ディアナの人はみんなレーヴェ様に騙されてるから、リリアの神のもとに戻りなさいって」


「大きなお世話でございますね」


「よりにもよって優しい恋の神様レーヴェ様から、厳しそうなリリア神になんて……モテなくなっちゃうじゃないですか」


サキが一言で却下し、リタも眉を寄せて嫌な顔をしている。


「そうなの? 竜王陛下、恋の神様なの? そしてリリア神は違うの?」


恋の神様なんだ、竜王陛下~と、もう一度、タペストリーのフェリスによく似た竜王陛下を見上げてしまう。


「リリア神は孤高の気高き神様ですから。ご結婚もされてません。レーヴェ様はレーヴェ様のアリシア妃への愛情の深さで、恋の神様とも言われます。」


「それに確かリリアの教団の戒律もとても厳しいはずです。レーヴェ様で育ってる呑気なディアナの民に、窮屈なリリア教は無理です」


リリアの神様、孤高の神様なのかあ。

でもきっと、リリアの神様だって、信徒にあんなこと望んでないよ。


あの信徒、ちょっとどうかしてるのよ。


誰かの大事なものを燃やして教えを伝えるなんて、そんなこと、きっと神様もとても悲しまれると思うの。

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