第127話 ずっと一緒にいたいと想うことについて

「レティシア、待って。皆が驚くから」


王宮に戻り、馬車を降りようとしたレティシアを呼び止める。


「あ……、すっかり、忘れてました」


街中で何かあってはと、魔法で茶色に見せていたレティシアの髪と瞳の色を、

本来の金髪と琥珀に戻す。


うん。

あたりまえだけど、やはりこのほうがレティシアらしくて可愛い。


「フェリス様はやっぱり、金色の髪と碧い瞳がフェリス様らしいです」


にこっと微笑って、レティシアもおなじことを言っていた。


「おかえりなさいませ」

「おかえりなさいませ」

「ただいま!」


「お外はいかがでした、レティシア様?」

「とても、とても、楽しかった! フェリス様と海に行ったの!」

「まあ海に。よろしゅうございましたね」

「まあ。素敵ですが、海辺のお散歩の後は、とくに髪と肌の手入れが大事ですわ、レティシア様」

「ほんと? そんなに日に焼けるほどじゃなかったけどな……」

「優しい春の日差しこそ、気を抜いてはならぬのです」


昨日の義母上の茶会の詫びのような気持ちがあって、空いてる時間に少しだけ外へ連れ出したのだけれど、生気満ち溢れるレティシアの様子に、誘ってよかったな、とフェリスはほっとする。


本当なら、ぞんぶんに甘やかされているような歳で、嫁姑の苦労をかけるのが、心苦しくて。


(いや五歳当時のフェリスも全く甘やかされてない状況だったが、それはともかくとして)


「レティシア、僕はこのまま出かけるけど……」

「はい。フェリス様、凄く、凄く楽しかったです!」


見上げて来る嬉しそうなレティシアを、おいていくのが、何だか忍びない。


このまま一緒に連れていきたいけど、そんな訳にもいかないな。

しかも行っても楽しい処でもなし……。


「お帰りを、お待ちしてます。 私がフェリス様を引っ張りまわしたので、お疲れがでないとよいですが……」


砂浜で、フェリス様、こっち! と手をひっぱられて遊んだ。


砂のお城を作りましょう、と誘われて、砂で城を作ってみたが、なんと波が壊しに来た。


驚いた。(フェリスは、そんな遊びはしたことがなかったのだ……)


優しい波はなかなか無常だったが、彼の姫君は挫けなかった。


それにしても、姫君の靴というものは、作りが華奢すぎるのでは? 

もう少し何とかならぬものなのか?

あれでは、ちっともレティシアの足を守れていないじゃないか。


「レティシアこそ、ゆっくり休むように。僕もとても楽しかったよ。つきあってくれてありがとう」


何故か、視界の隅でサキが目頭を押さえている。どうしてだ。

また坊ちゃま、すっかり人がましく……とか感動している気がする。


「ああ。あと、これを」

「何ですか?」

「アイス。レティシアと皆の分。……サキ、リタ、レティシアが皆にも食べさせたいと望んでたから。溶けないように冷却の魔法をかけてるけど、箱をあければ魔法は解けるから」

「……まあ、レティシア様、そんな私共にまで……ありがとうございます、フェリス様」


渡した箱を、大事そうに、サキが受け取る。リタも驚いた顔をしている。


「では、出かけて来る。レティシアを頼む」

「フェリス様、いってらっしゃいませ」

「お帰りお待ちしてます、フェリス様」


自分を待っててくれる人と結婚できるなんて、フェリスは思ってなかったので、

琥珀の瞳のちいさな姫君からその言葉をもらっただけで、わりとなんでもできそうに思えた。

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