第122話 魔法学院の王弟殿下と、御祝いの桜茶

手ずから食べさせてもらった薔薇のアイスは美味しいけど、き、緊張する……

フェリス様の端正なお貌が近すぎて……。


じ、自分でひとくちどうぞってやっといて、御返しのアイスがかえってくるとは想定してなかった……!


「レティシア、甘い?」


「はい。薔薇の方が甘いです」


でも、薔薇の花があまいわけじゃないよね、きっと……。


「どちらが好き?」


「んー、どちらも美味しいです。フェリス様、苺も……」


フェリス様、真面目な方だから。

レティシアが全てのアイスの味を味わいたいかもしれない、と思ってくれたんだと……。


「まあ……、王太后様が意地悪して、王弟殿下にちいさすぎるお妃を、て、街の人も私達も心配してましたけど、ずいぶん幸せそうですね、フェリス様。そんな御顔もなさるんですね……」


御茶を持ってきてくれたらしい店主が吃驚している。


「ち、違うの……お行儀悪いのはフェリス様じゃなくて、私が無理やり……!」


弁明しなければ、とレティシアは焦る。


「そんな貌もどんな貌も、うちはご先祖の代からこんな貌だが」


フェリスが眉一つ動かさず答えると、ん? 誰か呼んだか? と言いたげに、店内に飾られている竜王陛下の肖像画が不敵に微笑んでいる。


「いえ、レティシア様、お気になさらず。とても、いいことです。人間らしくて。もうね、ひどかったんですよ、昔。王立魔法学院でフェリス王弟殿下に甘い誘いなどしかけようとした者は、そりゃあもうことごとくゴミでも見るみたいな冷たい目で黙殺されて……」


「そもそも学問をしようとしてるところで、何故、訳の分からぬうっとおしい誘いをかけたがるのか、僕には理解できない。だが、誰のことも粗末に扱った覚えはない。呼びかけられたときに、視線を返したら、大概の者は、何故か倒れるか、黙るか、逃げ去るのだ。もう自分でも、人に怖がられる貌なのは自覚している」


フェリス様、きっとその倒れた方々は、フェリス様と瞳があってテンパりまくっちゃっただけで、決してフェリス様のお貌が怖い訳では……。


「王弟殿下の認識が独特なだけで、学校ていうのは、学問したり恋愛したり友達作ったりするとこなんです。オンリー学問と魔法の技だけ極めまくるところじゃありません」


「そうなのか? レティシアもそう思う?」


「……は、はい」


それは、そうだと思うんだけど、レティシアが頷いたら、フェリスが沈黙して困ってたので、ちょっと可哀想になった。


「……では、善処しよう。来世で学校に行く機会でもあれば」


「今生は無理なんですか?」


何故、来世、と思って、レティシアは尋ねる。


「少なくとも、ディアナ国内の学問所関係は飛び級して十五歳迄に卒業してしまった」


「レティシア姫、どんな魔法を使えば、こんなにフェリス様が可愛らしく聞き分けよくなるんですか?」


「いえ、私は、何も。フェリス様はこちらに来たばかりの私を心配して、私のいう事はよく聞いて下さるのだと……」


まるで性格のとても難しい馬でも手懐けた人みたいに言われてしまった。

何故に?

フェリス様はいつも優しいのに。


「とても、そんな次元じゃないと思うんですけど……」


「笑いすぎだ。カエラ。これ以上余計なことを言わないでくれ。レティシアに怯えられたくない」


「わかりました。これまでに拝見したことないほど、お優しいフェリス様。可愛らしいお妃様の大事な印象を損なわない様に、お口に気をつけますね。……レティシア様、お慶び事ですから、御祝いに、桜茶を煎れました。ディアナの桜の花びら漬けを、お湯で解いたものです。お召し上がりくださいね」


慶事に桜茶。

桜の香の紅茶ではなくて、ほんものの桜の花びら漬けにお湯を注いだもの。


主に、御祝いの席で出される桜茶。

桜の花が開く様に、この先の人生が花開くようにと。


そ、そんな、日本と同じ風習あるのー!?

それはもしかして、昔、レティシアみたいに、日本からディアナに転生してきた人が伝えたのでは!? ほんのり期待を込めて疑っちゃう。


「ありがとうございます。とっても、とっても美味しいです、アイス。こんな可愛いお店にフェリス様と二人で来られて、幸せな気分になりました」


「光栄でございます、姫君。こんな可愛いお妃様にでしたら、それは氷の王弟殿下もお優しく様変わりもしようというものですね」


「………? いつもお優しいです、フェリス様。私にだけでなく、フェリス様に長く仕える家の者も、皆、そう申します。優しすぎて、無理ばかりされて、心配だって」


レティシアは、にこっと微笑って、お返事した。

ご学友? だから、ただの親しみを込めての御言葉だとは思うんだけど、フェリス様が優しくないって言われるのは、ちょっとだけ違うの……。

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